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KPMGビクトリア州チェアマン兼ジャパニーズ・プラクティス責任者 Douglas N. Bartley氏 インタビュー

業界の歴史を目の当たりにしてきたトップの考えとは?

2009年10月10日掲載
 

 

【プロフィール】
Douglas N. Bartley
1948年生まれ、パース出身。幼少時代はパースで過ごし、その後父親の仕事の関係で、オーストリアで4年、キャンベラで5年過ごした後、大学へ通うためメルボルンへ移る。現在は、KPMGオーストラリアのビクトリア州チェアマンおよびサービスの統括パートナーを務めるとともに、豪日経済委員会の理事として活躍中。

 

--パースで生まれ、その後、様々な都市に移り住み、大学生活のためメルボルンへ来られたということですが、その後はずっとメルボルンにお住まいなのですか?

 1980年から1984年を除けば、18歳以降はメルボルンにずっと住んでいます。その間、つまり私が31歳から35歳の間は、仕事の関係でシンガポールに住んでいました。その頃私はTouche Rossに勤めており、Asia Pacific地域の担当者として赴任していました。この赴任が、私が初めて日本と関わりを持つことになった仕事です。日本へは1980年9月に初めて訪れました。

 

--大学では何を専攻されていたのですか?

 ビジネスの世界に入るため会計学と経済学を勉強していました。会計学と経済学は就職するにあたり様々な選択肢を与えてくれますから。卒業後、ビジネスを始めたいと思ったとしても、政府で働きたいと思ったとしても、何にでも対応できる学問です。

 

--Touche Rossで働いていらっしゃったということですが、どうしてKPMGで働くことになったのですか?

 当初、世界にはBig8(※1)と呼ばれる8つの主要な会計事務所がありました。訴訟事件等が多く財務的にも規模の拡大が求められるようになったことから、大手事務所同士の合併によりBig8がBig5になり、エンロン事件によりArthur Anderseが消滅して現在のBig4(※2)という形に落ち着きました。Big8からBig5になる過程で、Touche RossはDeloitte, Haskins & Sellsと合併して Deloitte & Toucheになったのですが、、ここがとても複雑で、私が働いていたオーストラリアのTouche Rossだけは、オーストラリアのKPMGと合併したのです。そういった経緯で、私は元々Touche Rossで働いていたのですが、今はKPMGで働いているのです。Big4は同時にLast4と言われているように、これ以上の合併は起こらないと思いますし、必要ないとも思います。

 

--働いていて最も面白いと感じる点と最も難しいと感じる点は何ですか?

 最も面白い点は、沢山の人に会うことが出来るところだと思います。大勢のクライアントを抱えていますから、その中にはとても面白く個性的な人達がいます。新しいクライアントを持つたびに新しい人に出会えるという意味で、この仕事はとても面白いと思います。仕事ではありませんが、旅行に関しても同じことが言えると思います。2~3年前に日本のニセコへスキー旅行に行ったときも、それまでは北海道を訪れた経験がなかったのですが、沢山の知らない人と出会うことが出来、とても良い思い出になっています。KPMGはとてもインターナショナルな企業ですから、その分、私達は沢山の海外出張などの機会に恵まれています。出張する度にいつも新しい課題や出来事を発見し、とてもいい刺激になります。

 難しい点は、クライアントからタイムリーなサービスを要求されたときですね。そういう時は本当にハードに働かなくてはいけません。私達はサービス業ですので、クライアントから要求に対して適時にご対応しなくてはいけませんから。

 

--どうやって現在のポジションに就いたのですか?

 私は今2つのポジションに着いています。一つはジャパニーズ・プラクティスの責任者、そしてもう一つはビクトリア州チェアマンです。前者に関しては、アジア地域を長年担当してきた経験と、日本企業と仕事をしてきた経験が長く日本経済への理解が深いため、このポジションを任されています。後者のビクトリア州チェアマンに関しては、このポジションはとても競争率が高いのですが、これまでのキャリアが認められて、このポジションを任されています。

 

--このような大企業を管理するのは難しくないですか?

 KPMGはとても複合的な組織で、組織が3つの要素から構成されています。一つは提供サービスの要素(監査、税務およびアドバイザリー)、一つは専門分野の要素(金融、エネルギー資源、消費者産業、工業産業、情報通信、政府)、そしてもう一つは地理的な要素(シドニー、メルボルンをはじめオーストラリア国内で13ヶ所)です。この3つの要素が組み重なって、それぞれのプロジェクトチームが組成され仕事をします。難しさという点では、働いている人の多さでしょうか。オーストラリアだけでも4500人以上の人が働いております。ですから、必然的にコミュニケーションをよく取ることが必要とされます。プロジェクトチームを組んで働くポジション、いわゆるクライアントと接するポジションの他に、IT・HR・マーケティング・総務といった間接部門があります。

 

--今まで働いていて最も記憶に残っている出来事は何ですか?

 そうですね・・・、一番印象深いのはシンガポールにいた頃でしょうか。この時の経験によって、私はオーストラリアとアジアの関係に全く新しい将来性を見出すことが出来ました。その頃オーストラリアはヨーロッパやイギリスとはとても近い関係にありましたが、アジア地域に関してはまだ未開拓で、あまり近しい関係にありませんでした。当時の私の仕事はまだ誰も手を付けていなかったことであり、私はシンガポールを拠点にマレーシア・フィリピン・タイ・韓国・日本といったアジア地域の各国とのつながりを、長い時間をかけて深めていきました。あの時、アジア地域の仕事が出来たこと、しかも全てが真っ白の状態から担当できたことは、私にとってとても意味のあることだったと思います。日々新しい課題や仕事にぶつかり、新しい人々と出会う・・・、エキサイティングな毎日でした。それにアジア地域には沢山の文化が存在しています。それが本当に面白いですね。フィリピンの文化はタイやインドネシアの文化と異なりますし、韓国と日本だって全く違います。言語だって違いますから。一般的にこれらの地域は独自の言語と独自の文化が発展していて、それが私にとってとても面白い点でした。

 

--近頃の景気後退はオーストラリア経済にどのように影響していますか?

 オーストラリア経済への影響は、予想されていたほど悪くないように思います。しかし、まだ景気回復までの道程は長いと予想されます。まだまだ失業者数も深刻ですし、オーストラリア経済は政府による景気刺激策に頼っているところがありますから。景気回復に向けては解決しなくてはならない問題が沢山あると思います。オーストラリアはここ10年間で高度成長を遂げましたが、その分私達は、経済的成長や好景気に慣れてしまっていたと思います。ドイツやイギリス、アメリカそして日本に比べれば経済状況は悪くはありませんがね。日本経済は製造業に頼っている部分が大きい分大変でしょう?それだけ失業率の伸びも速いと思います。オーストラリアの失業率の上昇は8~10%に上ると見られていますが、現在の経済状況を見ていると実際は5~6%程で収まると私は予想しています。

 

--オーストラリア経済は資源に頼っている部分が大きいですが、この世界的不況によってそれらの資源需要に関して影響が出ると思いますか?

 中国の経済成長が年7~8%の割合でまだ続いていますので、中国の経済成長がこのまま続き我々の持つ資源の需要が続けば、オーストラリア経済にとってはとても良いことです。

 それに中国には我々の食料資源に対する需要も期待できると思います。あと、西オーストラリアではゴルゴンガスプロジェクトやダーウィンで進められているイクシスLNGプロジェクトがありますから、これらの開発プロジェクトがオーストラリア経済や雇用状況にとって良い刺激になると思います。こういった資源開発プロジェクトは、日本にとっても例えば東京ガス、大阪ガスなどのガス会社、東京電力や関西電力などの電力会社にとっても重要な意味を持っていると思います。

 

--オーストラリアでは90年代初期に同じような不況の歴史があったかと思いますが、その時と今とでは何が違うと思いますか?

 90年代の不況はオーストラリアに本当に大きな景気後退をもたらしました。今の失業率とは比べ物にならないほど多くの人が職を失い、とても深刻な状況でした。 現在に比べ、政府の都市管理が行き届いておらず、そういった結果をもたらしたのだと思います。それに現在は様々なワーキングスタイルが確立されており、人々はよりフレキシブルに働くことが出来る環境になりました。フルタイムだけではなく、カジュアル、パートタイムといった形態を取って働くことが世間的に認められていますし、ジョブシェアリングも可能です。それに、現在のほうが人々は移動性に優れています。仕事が無かったら仕事のある場所を求めてすぐ動くことが可能です。就業スタイルの多様性と人々の可動性が90年代の不況と現在の不況の違いを生んでいるのではないかと考えられます。

 

--KPMGでも様々な就業スタイルを採用していらっしゃいますか?

 ええ、もちろんです。特に女性の方は働きやすいのではないでしょうか?出産休暇も取りやすいですし、産後の職場復帰に関してもフレキシブルに対応できるようサポートが整っています。やはり90年代に比べると、世間的にも様々な就業スタイルを採用する傾向が強くなっています。KPMGではジョブシェアリングは難しいかもしれませんが、有給休暇も取りやすく働きやすい環境が整っていると思いますよ。それに、今はコンピューターの時代ですから、在宅勤務もしやすい環境になりました。外部とのコミュニケーションもE-mailやテレビ電話で事足りることが多いですし。

 

--この業界で働きたい若者に向けて何かメッセージをお願いします。

 この業界で働く人は様々な仕事をすることができます。監査、税務、およびアドバイザリーといった多くの業務が存在し、沢山学ぶことがあります。アドバイスとして私がいつも若者に向けて言うことは、自分が楽しんで働くことが出来る分野、自分が興味を引かれる分野を見つけなさいということです。

撮影:板屋雅博


※1 Big8とは
Arthur Andersen
Arthur Young & Co.
Coopers & Lybrand
Ernst & Whinney
Deloitte Haskins & Sells
KPMG Peat Marwick
Price Waterhouse
Touche Ross

※2 Big4とは
KPMG (1995年にKPMG Peat MarwickからKPMGに改名)
Ernst & Young (1989年にErnst & WhinneyとArthur Young & Co.が合併)
Deloitte Touche Tohmatsu (1989年にDeloitte Haskins & SellsとTouche Rossが合併)
PricewaterhouseCoopers (1998年にPrice WaterhouseとCoopers & Lybrandが合併)

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