interview
キャリア・学ぶ

ヤマハは「夢を売る会社」

ヤマハ・ミュージック・オーストラリア 二橋泰裕社長

2012年10月3日掲載

 

日本人ならその名を知らない者はない、音楽の総合メーカー、ヤマハ。

今年で創業125周年を迎える同社、今や世界中にも現地法人を持ち、グローバルにビジネスを展開する。

1961年にRose Musicという家族経営の楽器店により、ヤマハ楽器は初めてオーストラリアの地を踏んだ。
その後ヤマハは同店よりオーストラリアにおける販売権を購入、現地法人を1986年設立させる。
以来地元オーストラリアの人々へ、クオリティーの高い楽器やAV機器を提供し続けてきた。

二橋泰裕氏は同社社長として、4月に渡豪。過去にシンガポール、カナダにも駐在、世界の音楽マーケットに精通したグローバルなヤマハ・マンだ。

そんな二橋社長から見たオーストラリアにおける音楽市場とは? また自分が社長として目指すゴールとは? 

 

【プロフィール】
1958年(昭和33年)生まれ。静岡県浜松市出身。小学1年からソフトボールを始め、中学、高校と軟式野球部に所属した野球小僧。1981年、ヤマハ(当時は日本楽器)入社。楽器は、中学・高校時代にギターを少々。国内営業9年(大阪、岡山、広島、東京)、海外駐在は通算13年(トロント7年、シンガポール6年)入社以来、一貫してAV(ホームオーディオ)ビジネスに携わる。本社にてAV商品企画の経験もあり。前職は、アジア・パシフィック営業本部にて、広大な地域で音響機器(民生用・業務用)営業を担当。

 

 

■オーストラリアとヤマハ

ー今年4月にオーストラリアへ赴任されてから、およそ5ヶ月。オーストラリアでの暮らし、お仕事はいかがですか?

忙しいながらも非常に充実していました。
来てすぐに上原ひろみが来豪したジャズ・フェスティバルがあったり、4年に1度のピアノ・コンペティションがシドニーで開催されたりと、いろいろなことが凝縮された5ヶ月間でした。

私は過去にシンガポール、そしてカナダに駐在した経験があり、これで3度目の海外駐在になるのですが、どの国でも1からのスタートです。
働く仲間も違えば、マーケットも違う。新しく学ぶことはたくさんあります。
 

今年6月に開催されたMelbourne International Jazz Festivalのために初来豪した、上原ひろみと二橋社長。
二橋社長にとって、上原ひろみは浜松市内の高校の後輩でもあるそう。コンサート後にその会話で盛り上がったあとに撮った1枚。
写真:ヤマハ社提供

 


ーオーストラリアのマーケットは、どんな特徴があるのでしょう?

グローバル・マーケットは、大きく「北米」「欧州」「アジア」の3つに分けられます。

オーストラリアは広い土地に人口が少ないという点で北米に近いのかな、と思っていたのですが、来てみたらやはりイギリスの影響が非常に強い国だな、と。
北米やアジアは「とにかく安いほうがいい」という消費者が多いのにくらべ、ここではクオリティー対して、きちんとお金を払う。そういった点で、ヨーロッパ的です。
それに応えるためにも、いいものを提供していきたいですね。

 

ーオーストラリアでは、ヤマハのどんな商品が特に人気がありますか?

ビジネス・ボリュームとしては、AV機器の売上が他市場に比べて大きいですね。欧米日に次いで、大きな市場です。また楽器に関しては、ピアノ・管楽器のアコースティック系からドラム・ギターなどのコンボ系まで満遍なく販売しています。


ーするとやはり、今後もAV機器の販売に力を入れていく?

いや、それだけではないですね。
私は入社以来ずっとAV機器に関わってきたので、身近な商品ではありますが。
楽器メーカーとして、ヤマハの顔は、やはりアコースティックです。
そして、ヤマハのイメージ、ブランドを代表するものであるピアノを、もっと売っていきたいですね。


ー楽器を売るための戦略は、どういったものなんでしょう?
楽器はAVとは、ビジネス形態、販売網が違うんですよ。
AVは、JB HI-FIやHarvy Normanなどの量販店を通じて。
楽器は楽器店、そして「学販」と言っているのですが、セカンダリーや音大などの学校がエンド・ユーザーでもあります。

また楽器の方は、きめ細かな専門性が求められるのも特徴です。
特にアコースティックはブランドの評価が重要。
例えば、コンペティションでヤマハの楽器を弾いたミュージシャンがいい成績を残す。そうすると、引き合いが変わってきます。

ですから、欧米などでは専門家やアーティスト対策を行う専任者がいます。
オーストラリアでは、プロダクト・マネージャーが、コンペでいい成績を残せるよう、セミプロのミュージシャンをサポートしています。
また音楽教室を開き、需要を創造していく。楽器演奏人口を増やすことで楽器購買人口を増やす、という地道な活動も必要です。

AVが強いと言いましたが、オーストラリアは、人口あたりの楽器の購入額が、世界の中でも高い、
音楽の盛んな国です。
ここでビジネスができて、うれしいですね。


ーヤマハ・オーストラリアは、他国のヤマハ現地法人と比べてどんな違いがありますか?

おおらかで、ゆったりしていますね。大陸的というか(笑) 

それから何らかの楽器を弾ける社員が6~7割はいるんじゃないかな。セミプロレベルの社員も何人かいます。社内ですぐバンドが組めますよ。

プロダクト・マネジャーは、ディーラーの前で弾いてみせたりしなければいけないので、音楽ができる人間が多いのは当然なのですが、ここは他国に比べても明らかに多いですね。

だからかもしれませんが、それぞれ担当する領域に関しての専門性が非常に高いです。



■二橋社長とヤマハ

ーところで二橋社長は、なぜヤマハに入社されたのでしょう?

スポーツ用品にあこがれて入社したんですよ。当時は、スキー板やテニスラケットも作っていて。
スポーツ用品担当者のジャンパーがかっこよくて、それにあこがれて(笑)
ただこの部署は競争率が高く、結局AVになりました(笑)現実は甘くない(笑)

 

ーAV機器の商品企画もされたことがおありなんですよね。

そうですね、カナダから戻った2000年から2年間、ミニコンポ、マイクロコンポといったものを企画しました。
今だに続いている製品としては、スピーカー部分が光沢のあるピアノ風の塗りになっている「ピアノクラフト」。楽器メーカーであることをAVのデザインに活かせないか、と考えて生まれた製品です。これの2代目、3代目を担当しました。

それから2001年に、壁掛用の薄いミニコンポ 、デスクトップ・オーディオ・システムのTSXを作りました。

これは私が中心になって企画したもので、自分の意志で、何でもやらせてもらいました。CDの蓋をモーターで開け閉めできるように技術者にオーダーしたり、デザイン重視ということで、ヨーロッパ各国の現地法人に意見を聞きにいったり。

当然みな意見が違いますから社内のコンセンサスを取るのが大変。すべてが思い通りになったわけではないですが、なんとか形として落とし込むことができた。おもしろい経験でした。
0から何かのものを創り出すという「メーカーとしての醍醐味」を味わうことができました。

二橋社長が2代目、3代目を手がけた「ピアノクラフト」シリーズの最新製品「マイクロコンポーネントシステム MCR-332」。
スピーカー部分は深みのある艶が美しいピアノブラック調仕上げ、
ギターのボディラインを思わせる曲線形状の脱着式サランネットを採用するなど、楽器メーカーらしいこだわりを感じさせる
写真:ヤマハ提供

 


■二橋社長、そしてヤマハが目指すもの

ー今、二橋社長がヤマハ・ミュージック・オーストラリアの社長として、目指すものは?

「何かを形にして残したい」と思っています。

では海外の販売会社として、何が残せるか。

それは、強い販売網です。

ものを売る場合、商品か販売網かどちらが重要か、と言えば、販売網です。
たとえどんなにすばらしい商品があったとしても、いい販売網がなければ、売ることはできない。

私たちの仕事には「形のあるものを売っている」幸せがある。
自社のロゴがついた商品を街で見る、これは、営業をしているものとして、本当にうれしいものです。

技術者には、ものを作る喜びがある。
そして営業のものが、売る喜びを形として残すとしたら、それは販売網なんです。

それに加えて、人の育成。
社員たちのやる気をいかに引き出すか。モチベーションを上げられるか。それが私の仕事です。

ヤマハは「夢を売る会社」です。

楽器は日常必需品ではない。これがないと生活ができないというわけではない。
でもだからこそ、生活を豊かにすることができるものなんです。
その付加価値を認めてもらって、お客様に喜んでもらいたい。そう思っています。

 

聞き手・文:田部井紀子
写真(クレジットのないもの):長谷川潤

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