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Dr. Philip Flavin インタビュー

青い瞳の武士道とは?

 

【プロフィール】
日本(横浜)生まれ、アメリカ、サンフランシスコ近郊育ちのアメリカ人。教育はアメリカにて受ける。大学時代に日本語と国際関係を専攻。大学2回生のとき、交換留学生として関西外国語大学で学ぶ。その後アメリカで大学を卒業。1982年に再来日し、正派音楽院にて日本音楽(筝、地歌)を学ぶ。現在も演奏活動を続けながら、大学で日本文化の研究を続ける。

インタビュアー:長谷川 潤、大喜多 良美

 

--三味線との出会いのきっかけは何でしたか?

最初はお箏を習っていました。そのうち、“筝曲地歌”という音楽に出会いました。筝曲はもちろんお筝の曲のことですが、地歌は三味線の曲で、“地”は関西あるいは、京阪を指します。“歌”は江戸時代の目の見えない人が歌っていた歌を指し、筝曲地歌には三味線に合わせる歌という意味があります。
元々お箏のほうが好きでしたが、だんだん筝曲地歌の魅力に惹かれていきました。筝曲地歌のほうが「粋」ですからね。特に江戸時代の曲を聴いて、「これはいい!」とのめり込んでいきました。

 

--どのようにして勉強されたのですか?

日本で勉強しました。現在、お箏は外国にもお弟子さんを採って、きちんと教えられる専門家は何人かいますが、その当時海外にはいなかったため、日本でしか学ぶことができませんでした。三味線に関して言えば、当時も現在も日本でしか本格的に学ぶことができません。
交換留学生時代にとても良い先生に就くことができ、1年間で準師範の資格を取ることができました。実はそのとき、100人の受験生の中でトップの成績で合格することができました。本格的に勉強を始めたのは、正派音楽院に入学してからです。

 

--資格試験はどのようなものですか?

実技試験も勿論ありますが、筆記試験もあります。筝曲地歌の歴史や流派の歴史、楽典、聴音(旋律の書取り)などがあります。受験の際は実技のために13曲用意し、家元とそれぞれの科目の試験員の先生の前で演奏しました。

 

--準師範になられてからはどのような活動をされましたか?

資格を取った後、すぐにアメリカに帰国しました。帰国後に演奏会を一回開催しましたが、当時はまだ大学生だったため、人に教える自信はありませんでした。アメリカの大学卒業後に再来日し、その翌年に正派音楽院に入学しました。正派音楽院を卒業してからは演奏活動を時々していましたが、音楽活動だけではとても生活ができなかったので、英語の教師や、お弟子さんを教えて生活していました。ただそのころ(90年代)、日本での伝統音楽に対する興味が衰退してきていたのと、厳しい修行に対する嫌悪感の増大により、日本の伝統音楽を学ぶ人口が極端に減っていました。

 

--Dr. Philipにとって三味線の魅力は何ですか?

「粋」と「音色」です。三味線の最初の2、3音だけで、その人がまともに弾けるかどうかが判ります。「さわりのつけ具合(音の共鳴の仕方)」によってまったく音色が異なります。三味線を好きになったのは、その「さわり」の音色に惹かれたからだと思います。そして勉強しているうちに歌詞がだんだん解るようになりました。昔の恥じらい感のある、奥ゆかしい男女の恋愛の歌詞が好きです。
歌詞にもとても魅力があります。例えば今でも頻繁に演奏されているものに“手事物”というのがあります。18世紀ごろに大阪で生まれ、京都で流行りました。歌詞には掛詞(同音異義を利用し、文や歌の中で一つの語句に二つの意味を持たせること)が頻繁に使われていますが、読めば読むほど面白いです。表面上は上品な歌詞ですが、裏の意味は卑猥なものもあります。江戸時代に流行った言葉遊びの一つです。

 

--江戸時代に流行った歌に“端唄”がありますが、筝曲地歌との違いは何ですか?

筝曲地歌は西日本、特に京阪神を中心に流行りました。江戸には元来、筝曲はありましたが、地歌はありませんでした。端唄にはいろいろありますが、筝曲地歌の端唄は随分昔からあります。筝曲地歌を作っていた組合のようなものがあったのですが、組合以外で作られた曲のことを“端唄”と呼びます。「脇の歌」といった意味から、漢字の「端」が使われています。芸術的なものから、ふざけたような曲までさまざまな曲があります。今でもよく演奏されている端唄に、鬢(耳ぎわの髪)のほつれの美しさが描かれている、廓で流行った曲があります。

 

--三味線を演奏することで伝えたいことや、聴いている人にメッセージはありますか?

自分の過去を忘れてはいけないと思います。これが日本の文化であったという誇りや、その素晴らしい面も忘れてはいけない、と同時に悪い面も忘れてはいけないと思います。その当時の「味」も忘れてはいけないと思います。現代ではほとんどの人が、自分自身で「遊ぶ」ことができないと思います。そういうことができないことは寂しく感じます。もうちょっと「粋」な遊びをしてほしいです。そして何か「一人で」できるようになってほしいです。気持ちを盛り上げるような、高揚するような「遊び」をしてほしいです。

 

--日本文化の一番素晴らしい点は何だと思いますか?

一番優れているところは「繊細」なところだと思います。例えば茶会に添えられているナツメ一つだけでも、素晴らしく感じます。まったく見飽きません。
また「量より質」なところが素晴らしいと思います。それらが今、衰えていることがとても勿体ないです。日本の伝統工芸も後継者がいなくて作れなくなっている。「いいもの」と作ろうとする気持ちを大切にしてほしいと思います。

 

--若い世代に対するメッセージはありますか?

良し悪しもありますが、「いいもの」を忘れずにいてほしいです。

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