インタビューinterview

グルメgourmet

『ワインと僕のラブ・ストーリー』

【トップ・オーストラリアン・ワインズ】マーティン・ペストン氏

2012年3月24日掲載

 

「先週末はフード・アンド・ワイン・フェスティバルで、100種類以上テイスティングしてきたよ。


普通テイスティングではワインを口に含むだけであとは吐き出すものなんだけど、あまりにおいしいのはちょっとは飲んじゃったりしたんで、結構酔っ払ったね(笑)」


メルボルン郊外の自宅兼オフィスでそう話をしてくれたのは、マーティン・ペストンさん。

オーストラリア産の良質なワイン、ブティック・ワインだけを扱うオンライン・ワイン・ストア『Top Australian Wines』のディレクターだ。

 


人懐こい笑顔、一度話しだしたら止まらないワインへの愛と情熱。

初対面のGO豪編集部スタッフを古くからの友人のように、親しみをこめて迎えてくれる。

 

「ワイン飲む? 赤がいい? 白がいい?」

『Top Australian Wines』で人気の白『Two Italian Boys』のPinot Grigioを挟んで、マーティンさんとワインのラブストーリーを語ってもらった。


 

■一本のワインを追いかけて

数年前のある日。


友人を集めてバーベキュー・パーティーを開いたときのことだ。


みなで飲もうと1本のワインを開けた。

ワイン好きの父親の影響で、そのときすでにワイン通だったマーティンさんのワインラックにあった一本のShiraz Cabernetの97年もの。
あるワイン・ショップのクロージング・ダウン・セールで10年以上前に求めたものだった。

キッチンでコルクを開けた途端、得も言われぬ芳香が、マーティンさんの鼻腔を打った。

隣室にいた友人も気がついたほどの、強い香りだった。


もちろん、味も今までのワインと比較にならないほど素晴らしいものだった。


「なんだこのワインは!? 信じられない! バーベキューで飲むなんてとんでもない!」
 


ラベルを見ると、

Andraos Brothers

とある。
産地はVIC州北部Sunburyだ。

 

「どうしても、なんとしても、このワインが欲しい」


そう思ったとき、
クローズした店のオーナーが言っていたことを思い出した。


「このワインは、オーストラリアの店では普通手に入らないんだよ」。


その言葉のとおり、ダン・マーフィーやヴィンテージ・セラーズのような量販店には当然のように置いておらず、個人経営のワイン・ショップでも見当たらない。


「僕は一度これ! と思ったら、とことんまで追いかけるタイプの人間でね、絶対に諦めないんだよ(笑)」


探しつづけた6ヶ月後、このワイナリーが位置するSunburyで『フード・アンド・ワイン・フェスティバル』があると聞いて、馳せ参じた。




■恋が叶った瞬間

勇んで訪れたフェスティバルで、お目当ての『Andraos Brothers』は出店していなかった。


ワイナリーに電話をかけ、ワイン・メーカーのフレッドさんと話すことができた。

 

「あなたの作るワインは、僕が知っているなかで一番アメージングなワインだ!」

マーティンさんが電話口で情熱をこめて語ると、

フレッドさんは「ワイナリーにランチを食べにおいで」と招待してくれた。

 

初めて会うフレッドさんに、聞いてみた。

「どうやったら、あんなすばらしいワインができるんですか?」



フレッドさんの答えはこうだった。

「もしぶどうが100%のできじゃなかったら、ボトルには入れない。それだけのことだよ」

 

ワインを作るのは、お金のためではない。
作ったワインが、誰の手に渡るのか、知らなければ気が済まない。
なにしろ、一本一本が、彼にとっては「愛しい子ども」のようなものなのだ。


そんな頑固一徹のワインメーカーが、セラードアで売る以外にみずからのワインを卸すのをよしとしているのは、アブダビにある『エミレーツ・パレス・ホテル』ほか、ごく限られたところのみだという。


「僕のワイン・ストアで、なんとしても彼のワインを売りたい」

マーティンさんは、始めたばかりの『Top Australian Wines』のカードを手渡し、その日は辞した。



しばらくして、母親の誕生日のお祝いにと家族を連れて再びワイナリーを訪れたマーティンさんに、フレッドさんは


「君のことが気に入ったよ」

と、オンライン・ストアで彼のワインを売ることを快諾してくれた。


今やオーストラリアで唯一、『Andraos Brothers』のワインを扱う『Top Australian Wines』。
フレッドさんの頑固ぶりを知るワイン業界者からは
「一体どうやって、口説き落としたんだ?」
と羨ましがられているという。



写真:『Andraos Brothers』の2000年ChardonnayとShiraz。
世界に数えるほどしかいないという「マスター・オブ・ワイン」の一人
シンガポール在住のLisa Perrotti-Brown氏にマーティンさん自らが手渡し、
それぞれ90/100、91/100と高い評価を下されたワインだ

 


■ワインは人生

マーティンさんの『Top Australian Wines』で扱うワインは1000種類ほどもある。

そのすべてが、自らテイスティングし、その味を確かめたものだ。



「通常、各地で開催されるワイン・フェスティバルに行って、そこでテイスティングをして、気に入ったものを扱わせてもらう。

先月は3-4つほど、フェスティバルに行ったな。

どこも大体小さなワイナリーだから、僕のオンライン・ストアに卸すことをすごく喜んでくれるよ」

マーティンさんが、ちゃんと「出会って」「恋をした」ものだけが、売られているというわけだ。
 


扱うワインは何と10ドルとごくごくお値打ちのものから、600ドル以上の超高価なものまで、幅広い。


高ければ高いほど、おいしいワイン、ということ?

と聞くと、
 

「いや、そういうわけじゃないな。

20ドルのワインには20ドルのワインの魅力がある。
それは、600ドルのワインの魅力とは比べられないものなんだよ。

でも、僕のワイン・ストアで買える20ドルのワインは、
某量販店で買える同じ値段のワインよりも、ずっと価値があるってことだけは自信を持って言える」。


 

彼のワインへのこだわりは、ワインそのものに止まらない。

オーストラリアではほとんど手に入らない、品質の高いワイン・アクセサリーをフランスほか海外から輸入もしている。

「どうだい、これ。綺麗だろう? 
ピューターっていう金属でできているんだよ。

手に取ってみてごらん。
手にずっしりとくるいい重みだろう?」

マーティンさん自らが愛するものを、人に見せ、喜んでもらうのが嬉しくてしかたがない。

『Top Australian Wines』は、そんな彼の気持ちが高じてできたショップなのだ。


左は酒の神バッカスの顔をかたどったファネル。上から注ぐと口からワインが出てくる。
右は、ワインに適度の酸素を含ませることのできる「ワイン・フォール」

 


「ワインは僕の人生。

毎年、新しいワインに出会える。

同じワインメーカーの、同じ銘柄のワインでも、毎年味がまったく違うんだよ。

日の照り具合、気温、降雨量、それによって今年はすごくよくても、来年はぜんぜんダメだったりする。

それがワインの大きな魅力なんだ。
 

オーストラリアのワインはその味わい、深みの大きさで『ビッグ・ワイン』として、ここ数年世界でその評価が高まっている。

全体の質もどんどん改良されてきて、今や世界のトップクラスのワインになろうとしている。


僕はそんなオーストラリアのワイン界に貢献したいと思っているし、

オンライン・ストアを通して僕のワインへの愛情を、一人でも多くのひとと共有したい」

 

笑顔で語るマーティンさんのオンライン・ストア
Top Australian Wines』。


もともと日本贔屓の彼、

「オーストラリアの日本人コミュニティーの人にも、もっとオーストラリアのブティック・ワインの良さを知ってほしい」

と、サイトを日本語と英語のバイリンガルにグレードアップしたばかりだ。

 

まずはこのサイトを訪れて、彼の恋したワインたちに出会ってみてほしい。

 




聞き手・文:田部井紀子

 

 

 

  

 

オンライン・ワイン・ストア
『トップ・オーストラリアン・ワインズ』
www.topaustralianwines.com 
 

 

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