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木曜島の潜水夫(9)

トミーは、自分の生活が安定したところで、弟の寿一を、木曜島に来ないかと誘った。潜水夫の多くが身内を呼ぶのは、しきたりのようになっていて、トミー自身も兄の弥一郎に誘われて木曜島に来ている。そのトミーが木曜島に来た時には弥一郎は、トミーとは入れ違いで、日本に帰っていき、トミーとは会うチャンスがなかった。トミーは日本を離れる時、一番泣いて別れを惜しんだ弟の寿一を呼んだわけである。寿一は、トミーの誘いに乗って木曜島に来た。寿一が木曜島の港に着いた日、トミーは寿一を出迎えに出た。十年ぶりに見た寿一はトミーの記憶にある、泣き虫の甘えん坊ではなくなっており、たくましい青年になっていた。二人は再会を喜び、その晩は酒を飲み交わしながら故郷の話で盛り上がった。その日からは、寿一はトミーと同じ串本ハウスに住み始め、串本ハウスの会長、中井甚平の船に乗って、中井からいろんなことを教えられ、一人前の潜水夫になっていった。その寿一に何が起こったかは、のちに話すことにする。
 潜水夫は危険な仕事だが、その反面、お金が面白いように手に入る。お金を手にすると、トミーはギャンブルにのめり込むようになった。普段は温和なトミーだが、賭け事になると熱くなって、勝たなければ気がすまず、負け始まると、とことん負けるまでやってしまう。そして勝てば勝ったで、そのお金を寿一をはじめ、仲間の潜水夫を誘ってどんちゃん騒ぎをして、一晩で使ってしまう。貯金なんてしなかった。「お金なんて、稼げばいつでも手に入る」と、お金に執着しなかった。気前の良いトミーは皆の人気者だった。
 トミーは、他人におごるのは好きでも、他人からおごられることは嫌と言う負けず嫌いなところがあった。たまに仲間の潜水夫から「今日は俺がおごってやるから、飲みに行こう」と誘われても、誘いに乗らない。そういった面では変な奴だと思われていた。

ちょさ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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