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行方不明(21)

静子がエリック刑事に会いに行くと、他に手がかりが見つからない状況のせいか、意外にも静子の推理を素直に聞いてくれ、調べることを約束してくれた。

その二日後、エリックはポールを探し出し、事情聴取をしてきたと静子に報告しに来た。

「ポールの居所は意外に簡単に見つかりましたよ。幸運にも大学の卒業生の会に入っていたので。卒業生の名簿を殺人事件に関連することだと言って警察の権限でみせてもらうことができましたよ。そこで、ポールにきのう会って聞いたのですが、トニーとはトニーが日本に行くまで親交があったそうです。それに面白いことには、トニーが日本に行く前に住んでいたうちの見取り図を書いてもらったら、あのミスター残酷の被害者のジェシカの供述と全く同じなのです。どうやらあなたの推理があたったようです。そのとき、スティーブと言う男と一緒に住んでいたそうです。ポールの話では最初はトニーが一人で家を借りたものの家賃を払うのが大変だったので、二部屋あるうちの一部屋をスティーブに又貸ししたんだそうです。だから、トニーの名前は借家人としてすぐに判明したものの、スティーブの名前が出てこなかったようです。これからスティーブの行方を追って分かり次第、またご連絡しますよ」と言ってくれた。

 静子はその翌日は仕事が入っていたが、スティーブの行方が気になって、落ち着かなかった。その日は新婚さん5組の市内観光のツアーが入っていた。20代と思われるカップル3組と30代が2組。新婚さんのグループはこちらが一生懸命名所案内の説明をしても、二人のおしゃべりに夢中になっているか、寝てばかりいるので、説明してもしなくてもあまり変わらない感じである。今日のカップルの一組は黙って興ざめしたように景色ばかり眺めている。静子はこのカップルは成田離婚組みかもしれないなと思った。

 市内観光の名所のひとつフィッツロイガーデンには、イギリスから運んできたキャプテン・クックの生家がある。静子が、その家の窓が小さいのはその当時のイギリスの税金が窓の大きさによって決まっていたためだと説明すると、ツアー客の一人が、「京都では昔、間口の広さによって税金がかけられたから昔からあるうちも間口が狭いんだけど、イギリスも同じような税金のかけ方をしたんだね。」と笑った。

 その日6時に仕事から帰って留守番電話を調べたが、エリック刑事から何もメッセージは入っていなかった。

 スティーブの居所が分かったと連絡があったのは、その1週間後のことだった。

「すぐ、みつかると思ったのに、意外に時間がかかりましたよ」とエリック刑事が言った。

「それで、もう事情聴取をされたんですか。」

「いや、まだです。それというのも、スティーブは5年前からアメリカに住んでいましてね」

「5年前と言うと、ミスター残酷の最後の犯行が行われた後ですね」

「そうなんですよ。これでミスター残酷の犯行が5年前にとまったということも説明できると、捜査本部は沸き立っていますよ。ともかくスティーブに会って調査する必要ができたので、来週僕がアメリカにいくことになりました」

「そうですか。大変ですね。いつお帰りですか」

「まあ、遅くとも再来週の木曜日には帰ってきますよ」

「それでは、収穫が多いことを祈っています。」と言って、静子はエリック刑事を見送った。

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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