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私のソウルメイト(7)


 帰りの飛行機では、私はすっかり元気を取り戻していた。ロビンも大仕事を無事におえ、リラックスしたようで、ぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。
「僕の両親は、スコットランドからの移民でね。父親は早くなくなったんだけど、母とはとても仲がよかったんだ。その母も去年なくなってね」とさびしそうに言った。私はなんと慰めていいかわからなかった。いつも仕事できびきびしていたので、ロビンのもう一面の姿を見せられたように思った。
「私の母は私が7歳のときになくなりましたわ。だからロビンさんはラッキーだわ、私が母とすごせた時間より、ずっと長くお母さんとすごせたんですもの。羨ましいですわ」と言うと、
「僕もそういう面ではラッキーだと思っているよ。もう母も年をとってしまっていたからね。仕方がないと思うんだ」と、言った。
私は「もうすぐクリスマスですね。クリスマスはご家族と過ごされるんでしょうね」と言うと、あたかも私の言葉が聞こえなかったように、
「もとこさんは、クリスマスはどうするの?」と聞いてきた。
私は、このときよっぽど「あなたと一緒にすごしたいわ」と言いたかったが、口から出てきたのは、
「家族と過ごしますよ、勿論」と言う言葉だった。
それから、ロビンは窓の外を向いて、黙ってしまった。気まずい空気が流れた。飛行機の中は眠り始めた乗客が多くなったのか、暗くなっていた。私もそのまま眠るふりをしたが、ロビンの孤独を思うと眠れなかった。周りに人がいなかったら、きっと私はロビンの肩を抱いていただろう。この時はアーロンもダイアナも私の記憶からすっかり消えていた。
 メルボルン空港についた後は、ロビンはそのまま会社に出るというので、私はタクシーを拾ってうちに帰ることになった。別れ際、「今回はありがとう。おかげで契約もうまくいったよ。」と手を差し出した。私はその手を取って握手をしながら「お役に立てて嬉しいです」と言った。握った手は暖かく、その手を放すのが惜しかった。タクシーの中から後ろを振り返ると、私を乗せたタクシーが走り去るのをロビンは見届けて、自分の車のほうに向かっている姿が、目に映った。その後、心に大きな穴が空いたような、さびしい気持ちに陥った。確実に私は彼に恋し始めているのを自覚した。

著作権所有者:久保田満里子




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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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