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六度の隔たり(3)

~~夏美に気のない返事をしたあとテレビに目を戻したギャリーにつられて、夏美もテレビに目を向けた。
番組が始まったばかりで、「六度の隔たり」と題されていた。『六度の隔たり』なんて、どういう意味なのかしらと思ったら、解説者が六度の隔たりの説明をし始めた。
「世界中の人は六度の隔たりでつながっているという人がいます。直接知っている人は1度の隔たり、その知人の知人とは2度の隔たり、知人の知人の知人とは3度の隔たりと数えていくと、6人目の知人を加えると、世界中の人とつながっているという理論です。本当にそうなのでしょうか?今日はその実験をした人のお話をお伝えします。」
そして番組では、大学の研究者が全く面識もなく遠い国の人に渡った手紙が、実際に彼の元に戻ってくるかと言う実験が報道された。そして、番組は、ちゃんと届いたというハッピーエンドで終わっていた。
「『六度の隔たり』か」そうつぶやくと、夏美にひらめくものがあった。
「これだわ!」
夏美の意外に大きな声にギャリーはびくっとして
「なんだ。急に大きな声をだして。何が分かったと言うんだ?」
「まず私が知り合いの人にベンを探してくれるように頼むの。そしてその知り合いがその人の知り合いに頼むというふうにしていけば、きっとこのラブレター、ベンに届けられると思うんだけど」
ギャリーはそれを聞いて笑い出した。
「そんなに簡単に人が見つかれば、探偵事務所もいらないだろうし、CIAもいらないだろ」
「それはそうだけど。やってみる価値はあるんじゃない。ジーナにそうしてもいいか聞いてみるわ。ベンが男だから、女よりは見つけやすいだろうし」
「どうして?」
「だって、女の人は結婚してしまうと苗字が変わってしまうから、そうなったらもうお手上げよ」
「そうだね。君みたいに、前の夫の苗字を名乗る人もいることだしね」
からかい気味に言われても、夏美はギャリーにそう言われると胸がちくりと痛む。
「でも、あなたが同意してくれたから、前の夫の…」と言いかけると、
「別に僕はどうとも思っていないんだから、そんなにむきになるなよ」といなされた。
「私、思うんだけど、ラブレターが届かなかったら、それもそういう運命だったんじゃないかな」
「へえ、君が運命論者だなんて知らなかったな」
茶化されて夏美はムッとした。
翌日の夕方、夏美は会社からの帰り道、いつものようにトムを学校の時間外託児所に迎えに行き、二人で前の晩に作ったケーキを持ってジーナのうちを訪ねた。会社にジーナから、退院してもよいといわれたので、家に帰ると連絡があったのだ。
病院から帰ったばかりのジーナは、ベッドに横たわっていると思われたので、呼び鈴を鳴らさずに、預かっていた鍵を使って家の中に入った。すると、案の定ジーナはベッドに横たわっていたが、トムを見ると顔を綻ばせた。
「トム、よく来たね」と、トムを抱いてキスした。夏美は起き上がろうとするジーナをおしとどめて、
「ジーナ。起きないで。何か食べたいものない?」と、聞いた。
「いえ、食欲は全くなくってね」
「でも、何か食べないと、体によくないわ。スープぐらいは飲めるでしょ?私、スープを作りますから、トムと話していてください」と、夏美は台所に向かった。冷蔵庫を開けると、ほとんど空っぽで、ミルクとパンぐらいしかなかった。
「ちょっと、買い物してきますからね。何か買って来て欲しい物、ない?」
「すまないね。でも、何も欲しい物はないよ」と言う。
トムとジーナを家に残して急いで近くのスーパーに買い物に行って食べ物を仕入れ、スープ等作りおきの出来る夕食を作り終えると、もう7時になっていた。
「もう7時だけど、ギャリーが家で待っているんじゃないの?」
ジーナは遠慮がちに聞いた。
「大丈夫ですよ。ギャリーは今晩は出張でいないんです。私たちの分も作ったので、一緒に食べましょ」
「そう。すまないね」
トムには居間でテレビを見させながら晩御飯を食べさせ、夏美はベッドの上に起き上がってスープを食べているジーナに向かって、話を切り出した。
「ねえ、ジーナ。夕べ、どうすればベンさんを探せるか色々考えたんだけど、知り合いの人を辿っていけばみつかるんじゃないかと、思うんです。お母さんからイギリスにまだ住んでいる知り合いの人に手紙を送って頼んだら、どうですか」
そう言うと、ジーナは、困ったような顔になった。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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