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六度の隔たり(11)

~~(11)

ミアはジェーンに聞かれるまで、ベン・マッケンジーのことをすっかり忘れていた。何しろ自分達家族に思わぬ火の粉が降りかかってきて、その対応に追われていたからだ。
もう明日が引越しと言う日、お別れの挨拶をしに、カイリーと一緒にジェーンの家を訪れたミアに、ジェーンが聞いた。
「ところで、ベン・マッケンジーについて、あれから手がかりがみつかった?」
最初ベン・マッケンジーと言われてもすぐには思い出さないくらい、ミアにとってベンの捜索は記憶のかなたに飛んでいた。
「ベンって誰のことだっけ?」
「あら、おばさんに頼まれて消息を探していた人がいたでしょ?」
「ああ、そうだったわ。すっかり忘れていた。電話帳に載っていた人は皆別人だったわ。だから、あなたに言われたように、ベンが卒業した高校の名前と卒業した年は調べたんだけれど、それから何もしていないわ」
そして一呼吸おいて言った。
「もう私もヨークの町を去ることになったし、これから調べるのが難しくなったわ。何も関係のないあなたにこんなこと頼むのは心苦しいんだけど、この調査、引き受けてもらえないかしら?」
「いつまでとか期限を切られると困るけれど、暇なときに調べればいいということだったら、私も協力できると思うわ」
ミアはジェーンがすぐに快く引き受けたので、安心をし、その晩、ローラに電話した。
「おばさん?ミアですけど、ベン・マッケンジーさんの調査しかけたのですが、マークがキングスリンに転勤になったので、これ以上、私たちは調査ができなくなったわ。でもジェーン・リチャードソンと言う友達がベンさんの捜査をひきついでくれるというので、ジェーンさんに頼みました。これからジェーンから問い合わせがくるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「えっ?ヨークに去年転勤になったばかりではないの?」
ローラはヨークで起こった銀行強盗のことなど、全然知らないようだった。
「ええ、本当はもっといたかったのですが、色々事情がありまして」と言うと、ミアの一段低くなった口調でその事情と言うのはあまりよい事情ではないというのを悟ったのか、ローラはそれ以上、その事情と言うのをきいてこなかった。
「ベンの捜査のこと友達に頼んでくれてありがとう。夏美も感謝すると思うわ。じゃあ、元気で。キングスリンの落ち着き先が決まったら知らせてね」と言って電話が切れた。
結局ベンの調査は、ジェーンに任されることになった。


著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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