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娘の恋人(最終回)

フィオーナがシドニーに帰ってから二日後、結婚招待状を受け取ったが、私の気持ちは、困惑するばかりだった。結婚式に参列しないとフィオーナと永遠に決別するようになると思う一方、参列すると、二人の関係を認めたことになるというのも抵抗があった。フィオーナは一人っ子だ。フィオーナが結婚すれば、息子ももてるし、孫も見られると思っていたので、息子も、孫も諦めなければいけないと思うと、ひどく気落ちした。結婚式に出ようか、出まいかと思い悩んでいるうちに、結婚式まで一週間に迫っていた。その間、フィオーナから何も音沙汰がなかった。ジョージが、「結婚式には出よう」と決断を下したので、私もジョージの決断に従った。

結婚式は、雲ひとつなく晴天に恵まれて、シドニーバーバーブリッジの見える公園で行われた。ロビンは黒のパンタロンのスーツ姿で、フィオーナはベージュ色のロングドレスを着ていた。結婚式には百名以上も参列者がいて、二人を祝福する人の多さに、私は圧倒された。ロビンの両親は、二人の結婚には全面的に賛成のようで、「いやあ、フィオーナのような素晴らしい女性と結婚できて、本当に良かった」と、嬉しさを隠し切れないように言った。ロビンとフィオーナの友達には、ゲイの人も多かった。私は、結婚式の間ずっと、むっつりしていた。二人がキスを交わすときなどは、思わず顔をそむけてしまった。結局、二人には「おめでとう」の一言も言わずに、メルボルンに戻った。

それから、私とフィオーナは今まで以上に疎遠になってしまい、私は傷心の日々を送っていた。結局、その年は、フィオーナはクリスマスにもうちには戻ってこなかった。

二人の結婚から1年経ったころ、フィオーナから手紙が届いた。何事かと不安な気持ちで焦って封筒をビリビリに裂いてしまった私の手元から、パラッと紙が落ちた。拾ってみると、赤ん坊を抱いたフィオーナと、ロビンの三人が写っている写真だった。

「まあ、赤ちゃんができたの!」

驚きで、嬉しいのか嬉しくないのか、自分の気持ちが分からなかった。

赤ん坊は、黒い髪の毛で、くしゃくしゃの顔をしている。何となく、フィオーナが生まれた時を思い出させた。

「一体、誰の子なのかしら?」と、思った。

写真と一緒に来た手紙を読んで、私は複雑な気持ちになった。

「パパ、ママ

元気?

先週子供ができたので、お知らせします。

多分二人とも、誰の子かと思うだろうと思うので、子供のことを、誤解のないように説明しておきます。子供は私が産みました。でも、ロビンの卵子を使い、ゲイの男友達から精子を提供してもらいました。つまり、三人で協力してできた子です。ゲイの男友達は、医者で頭もよく、ハンサムな人なので、きっとハンサムで、頭の良い子になってくれるでしょう。この子には、パパとママの血は混じっていないので、二人にとっては、複雑な気持ちかもしれませんが、私がおなかを痛めて産んだ子です。とっても可愛いです。見に来てくれると、嬉しいです」

ジョージにもこの手紙と写真を見せると、しばらく黙っていた。そしておもむろに言った。

「一度、フィオーナの産んだ子に、会いに行こうか?」

私は、思わず頷いた。フィオーナの産んだ子がどんな子か、好奇心をもったのだ。

次の週、フィオーナの家に行って、赤ん坊に初めて対面した。

最初は、フィオーナに抱かれた赤ん坊を見ていただけだったけれど、抱いてみたくなった。フィオーナが渡してくれた赤ん坊は、暖かく柔らかで、今にも壊れそうな感じだった。小さな手足。小さな顔。抱いているうちに、いとおしさが湧き出ていた。自分でも不思議だった。自分の血が入っていない赤ん坊なのに、可愛さで一杯になり、思わず頬ずりした。フィオーナが生まれてきた時のことが思い出された。フィオーナは私のそんな様子を見て、初めてニッコリ笑った。フィオーと私の心につもっていたわだかまりを、小さな赤ん坊が段々溶かしていってくれそうに思え、私もフィオーナに向かって微笑み返した。何年振りかで交わす笑顔だった。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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