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家族(3)

サイモンと別れた日から約束の日曜日まで、マーガレットは居ても立っても居られない気持ちで過ごした。サイモンと会う前よりも、動揺していた。何しろディーンとは一言も話したことがないのだ。どんな青年になっているだろうか?マーガレットの頭の中でディーンに対する想像が膨らんでいった。サイモンに似てハンサムな背の高い青年を思い描いたが、その期待が裏切られてがっかりすることも考えられ、落ち着かなかった。

 日曜日の朝、約束したレストランに行くと、サイモンが先に来ていた。サイモンに挨拶をすると、サイモンはにやにやして言った。「何だか恋人に会うみたいにそわそわしているねえ」

「だって、ディーンと会うのは、ディーンが生まれた時以来だから…」と言い終えぬ先にディーンがマーガレットの傍に立っていた。マーガレットは傍らに立った青年を見上げて、自分の想像が裏切られなかったことを確認した。父親似でハンサムで背が高い青年だった。そして青い目と金髪は、マーガレットに似ていた。

 マーガレットは最初「こんにちは」とあいさつを交わした後は、何を話していいのだろうと思っていたら、ディーンの方から、「僕、生みのお母さんってどんな人かと思っていたけれど、僕の思った通りの人で安心したよ」と言ってくれた。それを聞くと、すぐに素直にディーンに謝る気持ちになれた。「ごめんね。あなたを育てられなくて」と、そういうと罪悪感がこみあげてきて自然と涙が出てきた。そんなマーガレットを見てディーンは「サイモンから事情はきいたよ。16歳では、僕を育てられなかったって言うのはよく分かるよ」と笑みを浮かべながら言った。「本当にいい子に育った。良かったわ」と、マーガレットは安心したら、それまでの涙顔が微笑みに変わった。しかしサイモンをお父さんと呼ばないことは少し不思議だった。その疑問はすぐにサイモンが説明してくれた。

「ディーンは、僕たちの事情を理解してくれたけれどね、育ての親をパパ、ママと呼んでいるので、僕たちのことをパパ、ママと呼ぶ気にはなれないそうだよ」

「そうなの。それはそうね。今まで見たこともない人が突然現れて、私が生みの親ですと言ってもピンとこないものね。サイモンの話では、育ての親はとても良い人たちのようね」

そういうとディーンは誇らしげに頷いて、「ええ、パパもママも素晴らしい人なんだ。敬虔なキリスト教信者でね、毎週教会に通わされたのは嫌だったけれど、心がとっても温かい人たちなんだよ」と言った。

 その後はお互いのわだかまりもなくなり、お互いの近況の交換をした。サイモンもマーガレットも離婚して独り身だと知ると、ディーンは冗談ぽく「だったら、結婚したら」と言ったので、サイモンもマーガレットもお互いの顔を見合わせ、思わず笑った。

 その晩、マーガレットの頭の中に、サイモンとの結婚の可能性が頭にもたげてきた。サイモンも同じだった。「マーガレットと結婚してもいいな」と思い始めていた。「でも、娘たちがオーストラリアに行くのなら、無理かもしれないな」と、その可能性を否定する気持ちも強かった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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