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人探し(18)

実母に会って気分が高揚していた正雄だが、家に帰った途端、峰子と史郎、それに千尋に、実の親のことをどのように話そうかと思案に暮れることになった。しかし、今はもう真実を告げることを引き延ばせない。明日の晩話そうと、正雄は決心した。
 翌日の夕食の時、家族全員揃い、夕食が終わったところで、正雄は改まった顔をして、
「皆に聞いてもらいたいことがあるんだけれど」と、言った。
「な~に?えらく改まって」と、峰子はきょとんとした顔で聞いた。
「実はさあ、僕、お父さんとお母さんの実の息子でないことが分かったんだ」
「なに?それはどういうことだ?」史郎が、まず詰問するように声を発した。
「話せば長くなるんだけれど、日本に帰ってくる前、ネットで、僕の生まれた日に僕が生まれた病院で生まれた藤沢聡と言う人のブロッグを読んだんだ。それによると、藤沢さんはXX病院で赤ん坊の時、間違えて藤沢の両親に手渡されたのだそうなんだ。藤沢さんが小学生の時、自分の血液型と両親の血液型が一致しないので、実子でないことが判明したんだ。そこで、藤沢さんの母親は実子を見つけたいと病院に抗議に行ったけれど、病院では取り合ってもらえず、泣き寝入り。そのうえ、藤沢のお母さんは夫から不貞を疑われて離婚してしまったんだそうだ。その後は藤沢さん親子は、苦難の道をたどったと言うことだった。僕は、この記事を読んで、もしかしたら、XX病院で取り違えられた赤ん坊って、もしかしたら、自分の事ではないかと思って、藤沢さんに連絡を取ったんだ。そして藤沢さんのお母さんが病院で手渡されたへその緒のDNAと僕のDNAを鑑定してもらったんだ。そしたら、藤沢のお母さんの持っていたへその緒と僕のDNAは一致したんだ」
正雄の家族はショックを受けて、誰からもしばらく声が出なかった。
沈黙を破ったのは峰子だった。
「じゃあ、その藤沢っていう人が、私達の実の息子だと言うの?」
不安そうな声だった。無理もない。今まで会ったこともない人間を「あなたの息子です」と言われて、すぐに受け入れることは難しいだろう。
「それが、そうじゃなかったんだ」
「えっ?それってどういうこと?」
「僕の持って行ったへその緒のDNAと藤沢さんのDNAは一致しなかったんだ」
「ということは、もう一人間違えられた赤ん坊がいるということか」と史郎は初めて事の次第を飲み込んだようだ。
「そうなんだ。本当は、藤沢さんをお父さんお母さんの実子として紹介できたら、それで、ことは済むと思っていたんだ。ところが、藤沢さんにはまた別に実の親がいる。その親に育てられたお母さんたちの実の息子がいる。だから本当はその人が見つかるまでは黙っていようと思ったんだ。だって、実の息子がどこにいるのかも分からないのに、実の息子だったと信じていた僕が、実は僕たちは他人でしたと言うのは、余りにも残酷だと思ったんだ。でも、きのう僕の実の母親に会って、このことを皆に黙っているのがつらくなったんだ。ごめんなさい」
正雄は家族の顔をみるのがつらくて、うなだれてしまった。
「それじゃあ、あなたは藤沢の家に行ってしまうってこと?」
峰子はそれだけが気がかりだったようだ。
「そんなことないよ。もしお父さんとお母さんさえ構わなければ、僕はこの家にいさせてもらいたいんだ」
「いさせてもらいたいなんて、あんたはたとえ血のつながりがなくても、私達の子供には違いないんだから」と峰子は涙をぽろぽろこぼしながら言った。
「ありがとう、お母さん」
正雄は、今までの胸のつかえがとれるとともに、峰子の愛情が今まで通り変わらないのを確かめて、ありがたいと思うと、自然に涙がこぼれ落ちた。そして気持ちが静まると、
「実は五十嵐に、病院から僕の生まれた日に僕と藤沢さん以外にも生まれた赤ん坊がいないか記録を見せてもらうよう交渉してもらうことになっているんだ」
「それで、あんたちょくちょく出かけて行ったのね」と千尋が言った。
「そうなんだ。お母さんたちも実の息子に会いたいだろう」
「そうだよ。あんたみたいに生意気な弟でなかったら、歓迎だわ」と千尋はいつものように憎まれ口をたたいた。
「ごめん」と、正雄の口から出た。
「冗談、冗談だよ」
千尋は、いつもなら正雄の反撃を受けて口げんかになるのに、殊勝に謝罪する正雄に驚いて、慌てて前言を取り消した。
 家族全員の混乱した頭の中は、正雄との関係をリセットするためには時間がかかりそうだった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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