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船旅(4)

最初のころは物珍しさも手伝って、それほど退屈にも思わなかった船旅だが、毎日目にするのは青い海と、時おり見える島ばかりになると、光江も退屈になってきた。そのうちニールは「ちょっと散歩に行ってくるよ」と、一人、船内を回って来るのが日課になって来た。そんなある日、光江はいつもはニールが散歩に出かけている間、本でも読むのだが、持ってきた本も全部読み終わり、ニールと一緒に散歩に出かけたらよかったと後悔した。そして、自分も外の空気を吸おうと部屋を出て、ニールを探しにでかけた。きっとバーにでも座ってビールでも飲んでいるのだろうと思ったのだが、バーにはニールの姿は見られなかった。最上階のデッキにいるのではないかと、デッキに出て、見渡したが、ニールの姿は見えなかった。もう部屋に戻ったのかもしれないと客室の並んでいる2階に戻っていった。通路を隔ててたくさんの客室があるのだが、光江たちの部屋の5つ手前の部屋から、突然ニールが出て来た時には、驚いて、思わず立ち止まった。声をかけようかと思ったが、ニールのいつにない厳しい横顔を見ると声をかけにくくなった。これは少し時間を空けて部屋に戻った方が良いと考えて、光江はくびすをかえして、バーのある方に向かっていった。一体あの部屋に誰がいるのだろう。そう思うと、気になって仕方なくなった。ニールのあの深刻そうな顔を見ると、こちらが聞いてもはぐらかされる気がした。
「そうだ。部屋を間違えたふりをして、あの部屋の客が誰か確かめてみよう」
光江はそう決心すると、また元来た道を引き返して、今さっきニールが出て来た部屋の前に立った。ノックをしようとした時、「ここにいたのか」とニールが声をかけた。思わずぎょっとなって、ニールの顔を見たが、いつもと変わらず穏やかな顔をして、「部屋にいなかったから、探しに来たよ」と言う。光江は、慌ててその部屋の前を離れ、「本も読み切ってしまったし、退屈になったからあなたを探しに行ったのよ。どこにいたの?」と、何食わぬ顔で聞いた。
「バーでカレンたちに会ってね。一緒にビールを飲んでいたんだ」
『まあ、何てしらじらしい。そんなのは嘘だ。嘘に決まっている』と、光江は思ったが、平静を装って、「そうだったの。私も一緒に散歩に行けばよかった」とニールに調子を合わせた。二人で部屋に戻って、夕方のテレビニュースを見て、晩御飯を食べに、大食堂に向かった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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