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船旅(8)

「アマンダは、どうして殺されたのか?」「犯人は一体誰なのか」その二つの疑問が光江の頭に繰り返された。しかし、自殺でないことには確信が持てても、殺害動機は、いくら考えても光江には分からなかったが、ニールは知っているように思えた。その数時間後、部屋でくつろいでいた光江たちのもとへ、香港警察の刑事たちが現れた。予期していたことだったが、ニールとアマンダとの関係がいまいちわからない光江は、刑事たちの訪問にどぎまぎした。それに比べてニールは落ち着き払っていた。ケビンとロバートと言う中国人の刑事たちは、もっぱらニールに対して質問をし、光江は無視された感じになった。光江が女でそのうえ白人ではないと言うことで、無視されるのだろうと思った。こういうことは、今までオーストラリアでもよくあったので余り気にせず、そのまま黙ってニールの答えを聞いていた。事情聴取は、英語で行われた。香港が中国に返還されて23年にもなるが、香港では英語が第二言語のように使われているので、こういう場合は便利だった。
「アマンダさんとは、船長のテーブルに招待されて、ご一緒されたそうですね」
「そうです」
「アマンダさんとは、この船で初めて会われたのですか?」
「そうです」
「彼女のことについて知っていることを、教えてもらえませんか?」
「僕たちは、それほど彼女と親しかった訳ではないので、知っていることと言えば限られていますよ。彼女がファッションデザイナーで、休暇を取って、この船に乗ったと言うこととです。あ、そうそう、サンフランシスコで下船して、1か月アメリカで遊んで、飛行機でオーストラリアに帰ると言っていました」
「そうですか。彼女の仕事の連絡先は分かりますか?」
「いやあ、僕は知らないけれど。光江は知っている?」とニールは光江の方を見た。
「聞いたことありません」と、頭を横に振った。
「昨日は何をしていましたか?」と、年上らしき刑事、ケビンに聞かれ、
「アリバイですか」と、ニールは苦笑いをした。
「いや。これは、皆さんに聞いてることですから、お願いします」と、刑事も下手にでた。
「昨日は、香港の町を妻と二人で歩き回って、夜の9時に戻ってきました」
「それじゃあ、午後10時から午前2時までは、どうされていましたか?」
「僕たちは10時半には寝ますから、その時間は二人とも寝ていましたよ。でも、僕たちは身内だから、お互いに証人にはなれないんですよね?」
今度は刑事の方が苦笑いしながら、
「刑事ドラマをよく見ているんですね」と、苦笑いをした。
それからケビンは、「また質問しに寄るかもしれませんが、その時はよろしく。また何か事件に関係ある情報を思い出したら、こちらに連絡してください」と言って、ニールに名刺を渡し、引き揚げていった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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