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足立良子さんの物語(4)

良子さんがジャーナリストとしてのとっかかりができたのは、オーストラリアの新聞に「日本人が見たオーストラリア」という記事を何回か書いたことだった。その頃の日豪関係は友好であるが、オーストラリアに住んでいた日本人は少なかったからか、オーストラリア人の日本に関する知識はお粗末だった。少しでもオーストラリア人に日本のことを知ってほしいと言う思いから、記事を書いたのだ。この記事に目を止めたラジオ・オーストラリアの人から声を掛けられ、ラジオ・オーストラリアの日本語課に勤め始めた。そこで、日本人向けの放送で「良子のオーストラリア便り」と言う週番組をもたせてもらった。ここでは、日本にいる友人に手紙を書くと言う様式を取って、良子さんが垣間見たオーストラリアを紹介したとか。今でもそうかもしれないが、その頃の日本人はオーストラリアをカンガルーと羊と鉄鉱石の国くらいにしか思っていなかった。普通の日本人はオーストラリアとオーストリアを取り間違えることも多く、オーストラリアに関する知識ときたら、皆無に近かった。少しでも日本の人にオーストラリアのことを知ってほしくて、良子さんがオーストラリアに来て驚いたことを紹介していった。それと同時にジャパンタイムズが発行していたスチューデントタイムズと言う新聞に依頼されて、オーストラリア紹介の記事を書き始めた。その記事を集めて、「女の見たオーストラリア」と言う本が、1979年にジャパンタイムズから出版された。
「私は題が気に食わなかったのよ。『女の見た』なんて『女』は余計だと思ったから、編集者に文句を言ったんだけれど、無視されたの」
 良子さんが抗議をしたのも無理はない。この題を見ると、オーストラリアに住む日本女性の体験談かと思う。しかし、内容は全く違っていた。しっかりと関係者をインタビューして調べ、統計なども駆使してオーストラリアを客観的に紹介している。だから、本の内容からして、「女の見た」は確かに余計である。この本を読むと、1970年代末のオーストラリア社会を知ることができる。今のオーストラリアと変わっているところも多いが、変わっていないところもあり、現代のオーストラリアと比較すると面白い。しかし、残念ながら、この本は絶版になっていて、古本しか手に入らない。
 良子さんが翻訳した「真珠貝の誘惑」(勁草書房刊)と言う本に関しても、彼女から興味深い裏話をきいた。この本は、1987年に出版されている。オーストラリア人の友人から原作者のメアリー・アルバータス ベーンを紹介されて、メアリーに気に入られ、翻訳を任されたそうだ。ところが同時に日本の某出版社からも、彼らの選んだ翻訳者の訳したものを出版したいと言う申し出もあったのだそうだが、メアリーはオーストラリアの文化を理解している良子さんを選んだとか。その時、翻訳代は払えないけれど、食住は無料で提供すると言われたそうだ。その住み込み先と言うのがドミニク系の尼僧院。メアリーが尼僧だったためだが、5か月余りオーストラリアの尼僧院で暮らした人と言う人は、良子さんくらいのものではなかろうか。

ちょさ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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