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藤沢美恵子(仮名)さんの物語(7)

陶芸に飽きた後は、もっぱらボランティア活動に打ち込んだ。
 最初のボランティア活動は、JCV(ビクトリア日本クラブ)。最初は普通の会員だったが、途中から会計や事務局長などの役員もした。
 その後はNSC(近隣シニアサポートクラブ)に入り、今でも近くにある老人ホームの居住者の訪問ボランティアをしている。週一回訪問して日本人の居住者とお話をしたり、大福を持って行ったりしている。最初に訪問した人は戦争花嫁だった人でアルツハイマーにかかっていた。廊下にある紙ナプキンを自分の部屋にためていた、介護士たちは訓練されているためか、彼女のそんな行為をとがめだてする人はいなかったけど、同居者の中にはそんな彼女の挙動に不快感を示し、意地悪する人もいた。他人の物と自分の物が区別できなくて、他人の物も自分の部屋に持ってくるので、部屋にはいろんな物があった。いつも何が起こっているのか分からないのならいいのだが、時々何が起こっているか理解する時がある。その時が悲劇。この人はトイレに二人の介護士に抱きかかえられるようにして行っていたが、介護士の一人が男性だったのに抵抗があったようで、トイレに連れて行かれるたびに、いやあな顔をしていた。最後には食べ物をうけつけなくなり、介護士が無理やり食べさせようとすると、顔を横に向けてペッと吐き出した。その時、この人は死にたいんだなと思った。食べなくなってからも栄養剤をうたれて、3か月生きていた。亡くなった時は骨と皮になっていたが、「よかったね」と思わずつぶやいた。彼女は私が通い始めて2年ほどで亡くなった。アルツハイマーの人と認知症の人は違う。認知症の人は昔のことはよく覚えているけど、5分前のことを忘れてしまう。だから認知症の人の場合は同じ話を何度も繰り返すのを辛抱強く聞いてあげることにしている。でも、アルツハイマーの人は現実と幻想が入り混じってしまっているので、対応が難しい。

ちょs

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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