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隣人(2)

「ご主人は去年まで市役所に勤めていて今年退職され、奥さんは近くの救世軍のお店でボランティアをしていましたよ」
「そうですか?お宅とは、どういったお付き合いをされていましたか?」
「まあ、年に一回、クリスマスの頃は、このあたりの住民が集まって、近くの公園でバーベキューパーティーをしていましたが、そのパーティーには積極的に出てきて、世話役のようなこともされていました」
「そうですか」
「犯人を早くつかまえてほしいですね。それでないと、夜も安心して寝られません」
「そうですね。ありがとうございました」
やっとテレビ局の男から解放された私は、思わず小声でシャロンに聞いた。
「あの人達をいい人達だったって、シャロン、あなた本当にそう思っているの?」
シャロンは、私の質問にすぐに答えた。
「とんでもない。でも、テレビのマイクに向かって、アーサーがひどい奴だった。だから殺されるのも無理はないなんて言える?それこそ、すぐに容疑者の一人にされるわよ」
シャロンの言うことはもっともだった。私もシャロンも、アーサーに怒鳴り込まれて辟易することが多かったからだ。
家に帰って、すぐに寝るつもりだったが、目がさえて眠れなかった。そして、先日のアーサーとのやり取りが思い出された。
その日、朝ごはんを食べていると、ドアのチャイムが鳴った。ドアを開けると、いかめしい顔つきののっぽのアーサーが目を吊り上げて立っていた。また、息子のアロンのことで文句を言いに来たのだと、すぐに分かった。
「夕べ、あんたとこのアロンが、うちの郵便受けを壊したので、弁償してもらいに来た」まるで機関銃の玉のように早口で言った。
「夕べですか?」
「そうだ。夕べだよ。きのうの夕方まではちゃんと郵便受けがあったのに、今朝起きてみると、めちゃくちゃに叩き壊されていた。また、あんたとこのアロンがやったんだろう」
私は何かあるとすぐにアロンを非難しに来るアーサーにはうんざりしていた。
「夕べなら、うちのアロンが犯人じゃありませんよ」
「どうして、そんなことが言える。うちの子に限って、そんなことをするはずがないって、どこの親も思うらしいが、あんたとこのようにシングルマザーで男の子の育て方も知らないような女に育てられたから、あんな出来損ないの子供ができるんだ」
いつもの侮辱が始まった。
「でも、夕べなら、アロンにはちゃんとしたアリバイがありますよ」
余り言いたくないアリバイだったが、これほどまでに侮辱されたら、こちらも黙ってはいられない。
「アリバイ?」
「そうですよ。うちの子は夕べ警察に補導されて、留置所にいたんですから、そんなことできるはずないですよ。今息子の身請けをしに行くところなんですから、かえってください!」
これにはアーサーも驚いたようだったが、私はアーサーの返事も待たず、ドアを思いっきり閉めた。それが、私が最後に見たアーサーだった。
確かに私はアロンには手を焼いていた。離婚後に看護師をしながらアロンを育てているが、高校生のアロンはマリファナを吸ったり、ナイトクラブに行って、お酒を飲んで暴れたりと、問題を良く引き起こす。ティーンエージャーのほとんどがそうであるように、親の私のお説教なんて耳に入らないようだ。その日もナイトクラブに行ってお酒を飲んで、喧嘩をしたと警察から連絡があったところだった。
アーサーはシャロンの息子、ジョージともトラブルが絶えなかった。ジョージはロックバンドを作っていて、裏庭にある物置小屋で、練習をするのだが、その音たるや、すさまじく、アーサーがそのたびに警察に通報するので、アーサーとジョージは犬猿の仲だった。
ベッドに入っても、誰がアーサーたちを殺したのか思うと、アロンの顔が思い浮かんだ。「いや、そんなことはない」と思っているうちに睡魔に襲われた。

ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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