家族(4)
更新日: 2025-01-25
ディーンと初めて会った翌週、マーガレットはサイモンと共に、ディーンの養父母に食事に招待された。初めて会った養父はほっそりとして背が高く、いかにもインテリに見えた。眼医者だと言うことだった、養母は太って背が低い、いかにも人のよさそうな女性だった。彼女は、ディーンを養子にもらう前は、夫の手伝いをしていたが、ディーンを養子にもらってからは、主婦をしていると言う。最近主婦というのは激減しているのだが、主婦になったからこそ、ディーンにつきっきりでディーンの面倒を見てくれたのだろう。子供が大好きと言う養母は、ディーンのことを誇りに思っているようで、ディーンを見る目は優しい母親の目をしていた。そして、食事の後には、ディーンの子供の頃の写真を見せてくれた。そこには普通の親子の楽しいひと時が刻み込まれていて、マーガレットはディーンとの一緒でいるべきはずであった時間が失われていたことに気づき、深く傷ついた。しかし、やむおえぬ事情であったとはいえ、それがマーガレットの取った選択だと思えば、何も言えた立場ではないと、自分の思いを飲み込んだ。別れ際に、「これからも、私たちに遠慮せず、ディーンに会ってやってくださいね」と養母に言われ、マーガレットもサイモンも養父母と抱き合って互いの頬にキスして別れた。それからマーガレットがイギリスを発つまで、三人で週に一回は会って、三人のきずなを取り戻した。マーガレットはイギリスにもう一組の家族ができたような気分に陥った。しかし、マーガレットもサイモンも再婚する約束まではできなかった。マーガレットにはオーストラリアに娘たちもいて、仕事もある。サイモンも今働いている会社を辞めて、オーストラリアで再出発することに躊躇した。お互いにしがらみを持つ身である。再婚するかどうかは、またお互いによく考えてからにしようと言うことになった。ディーンからは、「オーストラリアに遊びに行きたいな。そして、妹たちにも会ってみたい」と言われた。マーガレットは勿論ディーンがオーストラリアに来るのは嬉しいが、その前に娘たちにディーンのことを話す必要があったので、すぐには「是非いらっしゃい」と言えなかった。
イギリスを発つ日には、サイモンもディーンも見送りに来てくれた。周りの人から見れば、普通の家族の一員が旅行に出かけるくらいのようにしか見えなかっただろう。二人と入国手続きのドアに入る前、抱き合って別れを惜しんだ。彼らと別れて機上の人となったマーガレットの頭には、この一連の出来事をどのように、娘たちに話したらいいだろうかと言うことばかりが頭を駆け巡っていた。
ちょs
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