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姑と私(2)

光男の希望で、姑の家とは5分しか離れていない所に家を借りたのは、まずかった。これでは、毎日何回もうちに来るようになるのは、目に見えている。何とか対策を練らなくっちゃと考えているうちに夕方になり、予告通り、姑は7時きっかりに姿を現した。
「光男さ~ん、おるけ?」
「おるよ」
 夫は、これまた嬉しそうに玄関にそそくさと出て姑を迎えた。
 姑は、部屋に入ってくるなり、光男のそばにべったりと座った。私の胸にはざわざわと波風がたつ。姑が夫のそばに座るのでさえ、胸クソが悪いと思っていたら、姑は
「光男さん、触らせて」と夫を抱きしめて背中をさすり始めた。もう見ちゃいられないという思いでそっぽを向いた私に気づいたのか、夫が「よせやい」と姑の手を払いのけようとする。
「そうよ。お母さん。やめてください。みっともない」と思わず口走りそうになった時、
姑はやにわに折りたたんだお札をハンドバックから取り出すと、
「光男さん、これ、あげるけえ」と夫の手に握らせようとする。その手も払いのけながら夫は、「いらんけえ。いらん」と体をよじりながら姑の手を避けて、受け取りを拒否するそぶりを見せた。
その時、私は心の中で叫んでいた。
「もらえ~!もらえ~!」
その、「あげる」「いらん」の言葉の交錯に、私の「もらえ~」という心の叫びは、3分続いて決着した。夫が姑からお金を受け取ったのである。もし夫が最後まで受け取らなかったら、「それじゃあ、私が光男さんの代わりにもらっときます」と姑に言おうと思ったが、言わなくて済んだのは幸いであった。

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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