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ドタキャンの女(1)

 我が妹、さつきは、気の変わりやすい女で、私はいつもさつきのことを人に話すときには、「さつきが云々」とは言わないで、「ドタキャンの女が云々」と言うのが、口癖になってしまった。さつきから、時々抗議をされるが、さつきのドタキャンのために今まで迷惑をこうむることあまただった私は、さつきの抗議を無視することにしている。子供の頃から、何かに熱中してしまうと、他人との約束を忘れてしまうのがおもな原因であるが、ドタキャンの口実には、私が使われることもあり、いつもそのことで苦々しく思っている。
 さつきのドタキャンのエピソードを挙げれば、きりがないが、ドタキャンの素質を最初 にみせたのは、私が中一、さつきが小五の時だった。
その頃、母の友人が日本からたずねてきたのだが、さつきと同じ年の満枝という子を連れてきていた。母は、さつきと良い話し相手になると思い、大喜び。
「今日は、あんたたちが学校から帰ってきたら、夕方フィリップ島のペンギンを見に行くからね。早く帰っておいで。4時にはここを出ないと、夕暮れ時までにフィリップ島にいけなくなるから」と、母は私達姉妹に何度も言った。私は学校が終わるとすぐに家に帰ったが、4時になってもさつきは学校から帰ってこない。イライラした母は、「皆車に乗って。さつきはまだ学校にいるみたいだから、フィリップ島に行く途中で学校に迎えに行くわ」と、私達をせきたてて、車を出した。学校近くに来ると、さつきの姿が見えた。のんべんだらりと友達としゃべりながら歩いているさつきを見て、母は、車の運転席の窓を開けて、「さつき、何しているの?」と怒鳴ったら、さつきは母を見てきょとんとしている。「ママ、どうしたの?」と言うさつきに、母はカッとなってしまった。
母は、「今日はフィリップ島に行くから、早く帰っておいでと言っておいたでしょ」と、頭からゆげを立てながら怒鳴ったが、さつきは、
「あ、ごめん。忘れていた。友達からいじめられているって相談受けたものだから、その解決法を二人で話し合っていたのよ」と、悪気もなさそうに答える。
母の友達も、苦笑しながら、「それじゃあ、仕方ないわね」と、母とさつきの間をとりなすように言ったが、その日一日中母はご機嫌斜めだった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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