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ドタキャンの女(3)

細かいことを言えば、映画に行く約束も、その日になって、気がある男から食事に誘われたからと、ドタキャンされたこともある。引越しの手伝いだって、「お姉ちゃん、手伝ってあげるわよ」と調子のいいことを言って、その日になると、「ごめん。友達がバレエの券を持っていたけれど、いけなくなったので、あげるっていうから、バレエを見に行くことにしたから、引越し、手伝えなくなったわ」と言ってきた。万事がこういう調子なので、さつきとの約束は、余りあてにしないことにした。
私は、今年、仕事の都合で香港に転勤になった。
「さつき、香港に遊びにきたら」と、誘ったら、
「行く行く」と乗り気だった。そして、さつきは香港で中国の旧正月をすごしてみたいというので、2月のはじめに来る航空券を手配してやった。
さつきの飛行機はそろそろメルボルン空港を出発したころだと思った時、私の携帯が鳴った。出てみると、
「お姉ちゃん、ごめん」とさつきの声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、高速道路で車の事故があって、飛行機に乗り遅れてしまったの。だから、香港行けなくなっちゃった。ごめん」
「えー、また!」
さつきのドタキャンにはならされていた私もこれには、ムラムラときた。
「あんたとペニンシュラホテルで夕食を一緒にしようと思って、予約を入れているのに」
「ごめん。でもいけなくなったの、私のせいじゃないよ。まさか車の事故で交通止めになるなんて思わなかったもの」
「早めに家をでればいいでしょ。早めに!」
私の声は段々大きくなる。
「あんたが来ると思って楽しみにしていたのに」
「私だって、楽しみにしていたんだよ」
さつきのために買ってやった航空券は安い券だったので、払い戻しができない。
「あんたって、いつでも、ドタキャンなんだから」と、延々と続く私の愚痴にうんざりしたのか、携帯がぷつんと切れてしまった。
「さつきの奴」
私は自分の腹立たしさをだれにもぶつけられないのでますますイライラしてしまった。さつきが来たらいろんなことをしようと楽しみにしていたので、期待も大きかった分だけ失望感も大きかった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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