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EMR(26)

「この女、ガセネタを持ってきたな。メルボルン・セントラルがターゲットだと?空港がターゲットなのに、とんだお門違いだ」
 理沙は、その声を聞いたとたん、ぞっとした。
 ニールは理沙の話を熱心に聞くふりをして、言った。
「いやあ、貴重な情報をありがとうございました。これからも、何か情報を得られたら、お知らせください」
 そして、名刺を渡すと、さっさと部屋を出て行った。ニールは、理沙が聞いたと言う男の声について、他の刑事のように根掘り葉掘り質問しなかった。偽情報だと分かったからだろう。
 ハリーは理沙の緊張した様子を見ていて、ニールがスパイだったことを悟ったらしい。ニールが出ると、「奴だったのか?」と聞いた。理沙が頷くと、「よし、マークに報告に行こう」と言っている間に、マークがノックもなく部屋に入って来た。結果を聞きたくて部屋の外でうずうずしていたようだ。
「どうだった?」
「ニールでした。そして、分かったことはターゲットが空港だって事でした」
「時間は?」
「残念ながら、時間のほうまでは分かりませんでした」
「そうか。でも、ターゲットが分かっただけでも助かる。空港の警護を強化することができるからね」
「でも、そうすれば、ニールからムハマドに情報が筒抜けですよ」
「ニールには、メルボルン・セントラルの警護に当たらせるよ。君からの情報を無駄にしないためにね」と、マークはにやりとした。
 マークは時計を見ると、「もう三時か。明日までに余り時間はないな。ともかくニールに監視をつけて、ニールの携帯を調べてみることにしよう」と、独り言を言い、
「君たちの協力には、感謝しているよ」と、理沙とハリーと握手をして、警察署の外まで、送り出してくれた。
「時間が分からなかったのは、残念だけど、ターゲットが分かっただけでも上出来だったね」とハリーは理沙を褒めた。
「でも、明日、ムハマドが爆発させる前に、ムハマドを捕まえることはできるんでしょうかねえ」
「まあ、ニールと言うムハマドと結びつく人物をみつけたからね。逮捕することができるんじゃないか?」
 警察署を出て、ハリーの車に向かって歩き始めた時、理沙を呼ぶ声が後ろでした。振り返ると、マークが大またな足取りで二人を追ってきた。
「ちょっと、待ってくれ」と言うので、理沙とハリーが立ち止まると、二人に追いついて言った。
「そのEMRを貸してもらえないかな。ニールを監視するよりも、EMRで彼の心を読み取るほうが、手っ取り早くムハマドの居所も分かる。もう時間もないことだし」と、言う。確かに、ニールの心を読み取るほうが、情報が簡単に手に入る。理沙はハリーの顔を見た。
EMRはハリーの物なので、理沙には人に貸す権利はない。
「前にも言ったとおり、貸すことはできないけれど、今からニールを取り調べるのなら、それには協力できるけれど」とハリーが答えると、
「それでもいい。今はともかく時間がないので、早くムハマドの居場所を突き止めたいんだ」
 理沙とハリーは、またもとの取調室に引き返した。
「君は疲れているだろうから、今度は、僕がやろう。今度は堂々とニールの体を触ることができるからね」と、ハリーが理沙に申し出てくれた。理沙はそれを聞くとほっとした。きのうから、ずっと緊張しっぱなしだったので、頭がぼーっとしてきたところだった。
 ハリーがEMRをつけると、間もなくマークがニールを連れて取調室に戻ってきた。
 ニールは二人が座っているのを見ると怪訝な顔をしたが、空いている椅子に座ったところで、マークが言った。
「ニール。君がムハマドと通じていることは、分かっている。そこで、君をスパイの容疑で取り調べることにした」と言うと、ニールは驚いた顔をして、
「マーク。何を言っているんだ。俺が、どうしてムハマドに通じていると思っているんだ?濡れ衣もはなはだしい」と、声を荒げて言った。
 ハリーは、すばやく彼の腕を取った。ニールは驚いて、ハリーの顔をまじまじと見た。
「一体、何をしようと言うんだ?お前は一体何者なんだ。警察内部監査の者か?」と言うと、マークが「僕が依頼した調査員だ」と答えた。
 ニールの心の声が、ハリーにはっきり聞こえてきた。
「どうして、ムハマドとの関係がばれたんだ?それに一体このハリーとか言う男は何者なんだ?」
 ハリーはマークに聞こえたことを声に出して言った。自分が思ったことをそのままそっくりハリーが言うのを聞いて、ニールは驚いて目をむいた。
 マークがすかさず、質問を投げかけた。
「ムハマドは、どこにいるんだ?」
「ムハマドが、どこにいるだと?そんなことは、知らないよ」
 ニールが口に出したことが、そのままそっくりハリーに聞こえてきた。
「じゃあ、ムハマドは明日の何時に空港を爆破するつもりなんだ?」
「どうして、そんなことを俺が知っていると思うんだ?」
 ニールの心の声は別のことを言っていた。
「どうして、空港を爆破することが分かったんだろう。あの理沙とか言う女は、メルボルン・セントラルが狙われていると言っていたではないか」
 それをハリーが口に出すと、恐ろしいものを見るように、ニールはハリーを見た。

著作権所有者:久保田満里子



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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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