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私のソウルメイト(12)

12月に入ると、京子も私も俄然忙しくなって、会えなくなった。クリスマスプレゼントを買ったり、クリスマスカードを送ったり、クリスマスツリーを飾ったりと、クリスマスの準備に追われてきた。京子と私はお互いの秘密を電話では話さないことにしていた。いつ何時、家族に聞かれるか分からないからだ。
 ある晩、クリスマスプレゼントも包み終わって一息し、アーロンと一緒にテレビを見ていると、インド人の女性の心理学者が男女の愛について説明していた。
「男女の愛には3種類あります。情熱の愛。ロマンチックな愛。そして老夫婦がもつような慣れ親しんだ愛です。情熱の愛は、すぐに燃えてすぐにつきる愛です。ロマンチックな愛は、せいぜいもてて1年半。一番長続きがするのが、慣れ親しみの愛です」
 それじゃあ、アーロンに対する私の愛は慣れ親しみの愛で、ロビンに対する愛はロマンチックな愛と言えるのだろうか。それでは、ロビンに対する関心も1年半経てばなくなるということか。
私は最近ロビンのことを思い出しては、ぼんやりすることが多くなった。ロビンの笑っている顔、さびしそうな顔。忙しい時間の合間を縫って、ロビンのそんな顔が頭に浮かんでくる。
クリスマスの日、アーロンの両親をよんで家族で一緒にアーロンが焼いてくれた七面鳥などのクリスマスディナーを食べた時も、ロビンは今日はだれと食事をしているのだろうかと考えていて、アーロンの言った事を聞いていなかった。
「おい、どうしたんだ?」
「えっ?何か言った?」
「僕の言った事をきかなかったの?食事が終わったら、プレゼントの交換をしようよ。」
「そうね。そうしましょう。」
私は、ロビンのことを考えていたなんて悟られないように、慌ててクリスマスツリーの下に置いていたプレゼントをテーブルに運んできた。
ダイアナが
「お母さん、最近変だよ。ぼんやりしていることが多いんだもの」
「そんなことないわよ。ちょっと最近忙しかったので、疲れているだけよ」とどぎまぎしながら答えた。
 クリスマスのプレゼントの交換は、何歳になっても、楽しいものである。私はダイアナに服を買ってやりたかったが、ダイアナはいつも私の選ぶ服を気に入ったためしがなく、買ってやっても一回も手を通さないことが多いので、最近は商品券をプレゼントしてあげることにしている。アーロンには、ポロシャツを買ってあげた。アーロンのお母さんには、磁石のついたネックレスをプレゼントし、お父さんにはウイスキーをプレゼントした。皆それぞれ喜んでくれた。私は、アーロンからブローチをもらい、ダイアナからはウエッジウッドのコーヒーカップをもらった。アーロンの両親からは本をもらった。本の題を見ると、「前世療法」となっていた。アーロンの両親はスピリチュアルなことに興味をもち、よくこういった類の本を読んでいるみたいだが、こういった本をプレゼントされたのは初めてだった。
 アーロンは両親のスピリチュアルな話を馬鹿にしていた。だから、アーロンの両親は、うちに来てもそういった話をしない。アーロンの両親に初めて会ったとき、「あなたは、どんな宗教を信じているの?」と聞かれた。その時、キリスト教といわなければ結婚に反対されるのかと思ったが、正直に「仏教です」と言うと、二人ともうれしそうな顔をして「それじゃあ、輪廻って事も信じているの?」と聞かれた。「はあ、そうです」と言うと、ますます嬉しそうな顔をされ、私はきょとんとしてしまった。その後「私たちも輪廻を信じているのよ」と言われて、この人たちはもしかしたら、変な新興宗教にはまっているのかと内心思った。私の仏教に対する信心と言うのは、一般的な日本人が持っている、習慣のようなもので、仏教の教えは何かと聞かれても、答えられないような底の浅いものだ。今日もらった「前世療法」もそういった類の本だろうと想像がついた。


著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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