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私のソウルメイト(14)


「その男の人、前世でその女の人と結婚の約束をしていたんだけれど、戦争に行って死んでしまうの。それで、結婚の約束を果たせなかったんだそうだけど、そのためにその女性に惹きつけられたんだって言うことよ」
「そんなことが分かった後、その男の人、奥さんと離婚して、その女の人と一緒になったの?」
「ううん。今生では、離婚をすることは奥さんに多大な苦しみを与えるだけだから、次の人生で、一緒になろうとその女の人と約束して、別れたということよ」
「ふーん。ソウルメイトだからって必ずしも結婚するとは限らないんだ」
「そうらしいわよ」
「私も、どうしてロビンにこんなに惹きつけられるのか、彼と私の間に前世でどんなことがあったのか、知りたくてたまらないのよ」
「つまり、もとこさんも退行催眠を受けてみたいってわけ?」
「そう。誰か退行催眠してくれる人、知っている?」
「そのバイト先の知り合いに聞いてみてあげるわ」
「ありがとう、お願い」
「それで、もし、彼とあなたが深い因縁のある人だと分かったら、もとこさんどうするつもり?アーロンと別れて、ロビンと結婚するつもりなの」
「そこまで考えていないわ。日本から帰って、彼から一度も連絡がないし、最近なんとなく、すごい片思いなんじゃないかと思うようになったわ」
少し沈んだ気持ちになって、私はうつむいて言った。
「私だったら、彼のうちに押しかけて、自分の気持ちを伝えて、相手がどう思っているか、問いただすんだけど、あなたって臆病なのね。彼に拒絶されるのが怖いんでしょ?」
京子は揶揄するように言った。
「私のこと、よく知っているじゃない」
私は苦笑いした。
「それにね、たとえ彼が私のソウルメイトで彼も私のことを好きだったにしても、私にはアーロンもダイアナもいるし、ことはそんなに簡単にハッピーエンドというわけにないかないわ」
「もとこさんは一体アーロンのことをどう思ってるの?」
「何にも。まあ、空気のような存在ね。傍にいても嬉しいって気持ちもないし、惰性で一緒に暮らしているようなものね。でも、彼やダイアナを悲しませるようなことはしたくないの。時々彼でなくロビンが傍にいてくれたら、なんて思うことが時々あるけど」
「ふーん。恋するもとこちゃんっていうわけね」
京子は笑いながら言った。
「ところで、私のアパートやっと来週、引渡ししてくれることになったわ。だからこれから、アパートの家具なんか少しずつ買っていかなくてはいけないわ。買い物についてきたくれない」
「勿論いいわ。まだロベルトは何も感づいていないの」
「ぜーんぜん。まあ、アパートが使えるようになって、アパートですごす時間が多くなってくると、要注意だと思うけど」
 そして、京子は腕時計に目を落として、
「まあ、もう5時ね。帰らなくちゃ。今日はロベルトの誕生日なのよ。だからバースデーケーキでも作ろうかと思っているのよ」と、あわてて帰っていった。ロベルトに対する愚痴をいつも聞かされているが、彼女のそそくさと帰っていく後姿を見て、なんだかんだと言っても、彼女はまだまだロベルトを愛しているのだと思った。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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