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私のソウルメイト(22)


「ところで、おとといエミリーとダイアナのこと言っていたけれど、私もエミリーに聞いてみたわ」
「なんていっていた?」
「貴方の言った通りだったわよ」
そうだと思っていたが、確証を取るまでどこか頭の片隅で信じたくない気持ちがあった。だから、はっきりそうだといわれてみると、やはりショックだった。
「二人はまだ学生だから、卒業してから一緒に住むことを考えているみたい」
「そうか。やはり、そうだったのね」私はそういう以外になかった。
「エミリーとダイアナの友達は皆知っているみたい。最近の子は、余り同性愛に対する抵抗はないみたいよ」
「ふーん」
「まあ、ダイアナは私にとっても娘のような子だから、変な男に入れあげるよりはましよ」
そうだ。変な男や女に惚れこんで、人生の道を踏み外した人は、枚挙にいとまがない。翻訳仲間の栄子は、よく夫に暴力を振られて、あざを作っていることもあるが、それでも、別れようとはしない。近所に住むジェーンの夫はポーキーにはまってお金を使い込み、ジェーンが必死になって働いて借金を返したかと思うと、また他で借金を作り、またまたジェーンはその返済に追われるという地獄のような毎日をすごしているではないか。アーロンの従兄弟のルーシーの夫は浮気性で、いつも女を作ってルーシーを泣かせている。そう考えていくと、エミリーだったら、そういった心配は皆無だ。
「ともかく二人が幸せならば、私が文句を言う筋合いはないと思っているわ」
結局は、そこに落ちついた。愛しているなら、愛する人が幸せであることを願うのが当たり前なのだ。それで、いいではないか。
京子と話していると、外が暗くなって来ているのに気づいて時計を見ると5時を過ぎていた。私たちは慌ててうちに帰る支度を始め、
「じゃあ、来週の金曜日に1時にうちに来て。私の車で一緒にいきましょ」と京子に言って別れた。
 私はうちに帰る車の中で、一体愛とは何なのだろうかと考え始めた。愛する人の幸せを願うこと。それだけでいいのではないか。こちらが好きでも相手は嫌いってこともある。相手に自分の感情を押し付けるのは、愛とは言えないのではないか。ストーカーになる人は、ここのところを思い違いをしているのだ。また子供に自分の理想を押し付けるのも愛とは言えない。ダイアナのことは認めてやらなければ。そう思っているうちにうちに着いた。
うちでは、ダイアナが出かけるところだった。
「どこに行くの?」と言う私の言葉を無視して、ダイアナはバターンとドアを閉めて出て行ってしまった。何とかダイアナのことを認めて仲直りしなければと思っていた気持ちがたちまち萎えて、むかっ腹が立ってきた。
「なによ、あの態度は!」私は一人罵りながら、晩御飯の支度に取り掛かった。
毎日同じことの繰り返し。晩御飯を作って、家族で食べて、テレビを見たり本を読んだりして寝る。そしてまた朝が来て、仕事に出かけ、帰ってきて晩御飯を作って、と。本当はそれが一番の幸せなのだろうが、時々何もかもおっぽり出して、全てをおしまいにしてしまいたい思いに駆られる。暗い思いで作った晩御飯の支度ができたところで、いつものようにアーロンが帰ってきた。いつものように軽くキスして、そして夕飯を食べる。アーロンは仕事のことを余り話さない人なので、ダイアナもいない夕食は、私一人がぺらぺら話をしない限り、二人で黙々と食事をするだけだ。その晩は私も話すことはなく、食事は沈黙のうちに終わった。その晩ダイアナは夜遅く帰ってきたようだった。ベッドに横たわっている私の耳にドアが開く音がして、足音が聞こえた。時計を見ると午後11時半だった。
 翌朝、私はダイアナの起きてくるのを待ち構えていた。10時過ぎにダイアナは起きてきた。
「ダイアナ、エミリーのお母さんと会って話したんだけど、あんたとエミリー大学卒業したら一緒に暮らしたんだって?」できるだけ非難めいて聞こえないように、冷静を装って聞いた。
「そうよ」意外にもダイアナも冷静に答えた。
「いつからそんな気持ちをもっていたの?」
「そうね、中学校に入って皆が男のこのことを話し始めたときかな。私、全然男の子には興味を持てなかったんだ。だから、皆がどうしてあんなに男の子に夢中になれるのか気が知れなかったわ」
「ふーん。あなたをそんなにしてしまったことに、責任感じるわ」と言うと、急にダイアナはいつもの攻撃的な態度になった。
「何言っているの?別に育て方の問題じゃないわ。そういうふうに思われると腹立たしいわ」と、ぷいとまた自分の部屋に引っ込んでしまった。まったく扱いにくい子だと、情けなくなってきた。
 その次の週、会社でロビンと顔を合わせることもなかった。顔を合わせたら、自分のそっけない態度を謝るつもりだった。彼に奥さんがいて当然だし、それについて嫉妬する権利なんて私には何もないことを自分なりに納得したからだ。だから、会えないことが少し寂しかった。

著作権所有者:久保田満里子



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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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