Logo for novels

私のソウルメイト(27)

 リタイアメント・ビレッジからの帰り、私は姑からブライアン・ワイズの本を借りて帰った。’message from masters’ と‘only love is real’と言う本だった。
 うちに帰ってすぐに読み始めると、夢中になって晩御飯を作る時間が来ても、本を置くのが惜しかった。その本には、退行催眠にかかった人たちが、マスターと呼ばれる人たちのメッセージを伝え始めたことが書かれていた。それによると、人間は修行するために一番効果的な人生を設計して生まれてくるというのだ。その修行で学ぶことは唯一つ。人を愛するということだそうだ。だから、普通身体障害者の人は不幸な人といわれるが、それは間違いである。身体障害者たちは自らが困難な道を選んだ、優れた魂の持ち主であるからだというのだ。だから彼らを「困難なことに挑戦するする人」と言う意味で「チャレンジング・パーソン」と呼ぶことを推奨している。
「ふーん、こんな考え方もあるのか」と、私は目からうろこがとれたように思った。
昔ドフトエフスキーのカラマーゾフの兄弟を読んだとき、今でも心に残っている場面がある。それはイアンが弟のアリョーシャに「僕は罪もない子供が泣かなくてはいけないような事実がある限り、神を信じることはできない」というものだ。ティーンエージャーの時、これを読んだ時、「そうだ、そうだ」と思ったものだ。でも、その時の謎がやっと解決したように思えた。全ての人生は自分が計画したもので、自分が責任を負うものだ。決して神などと言う他人に責任を押し付けることはできないんだと思うと、不平等に見える色々な人間の人生も納得できるように思えた。
 それにしても、一体私とロビンとアーロンは過去世においてどんな関係があったのか、またその時の借りや貸しが今残っているので、こんなにも心が騒ぐのか、それが今週の金曜日には解明できるかもしれないと思うと、金曜日が来るのが待ち遠しかった。
 月曜日が来て、また会社に行った。ロビンと会えるのではないかと心の中で期待をしながら。しかし、そういうことは10中8、9起こりそうもなかった。その日は珍しく直属の上司のデイビッドが私のところに仕事のはかどり具合を聞きに来た。ちょうど昼前だったので、一緒にご飯を食べないかと誘われた。いつも昼休みは一人だったので、すぐに同意して、コートを片手にデイビッドと会社のビルを出た。
 昼食時の一番忙しい時のためか、せわしげなく人が出入りするビストロに入った。スパゲティーを注文して一段落すると、デイビッドが口を切った。
「仕事には慣れたかね」
「ええ、おかげさまで。でも、週二日しか来ないので、誰とも知り合いにはなれなくて、ちょっとさびしいですが」
「そうだね。君はパートだから、余り同僚と付き合うチャンスもないんだろうね。今度会社の社員の親睦会があるから、君もご主人と来たらいいよ」
「親睦会?それはうちの部の人たちのためなんですか?」
「いや、全社の社員を対象にしたものだよ。社長以下お茶汲みまで、来るよ」
「社長さんもいらっしゃるんですか?」
「うん。たいていね。ああ、そういえば君は社長と顔見知りではなかったのかね」
「えっ、どうして、そんなこと知っていらっしゃるんですか」
「いや、前に社長が日本に出張するのに、君が通訳として同行したことを社長の秘書に聞いたことがあるからさ」
「社長の秘書とは親しんですか」
「親しいというか、社長秘書はうちのかみさんの姪にあたるんだ」
私は、それを聞いて、社長夫人がどんな人かデイビッドは聞いたことがあるかもしれないと思い、思い切って聴いてみた。
「社長の奥さんって、どんな方なんですか?」
「社長の奥さん?そんな人いないよ」
私は、それを聞いても一瞬信じられなかった。彼は、美しい女性と一緒にレストランで食事をしているのを現に目撃している。
「でも、一度美しい女性と一緒にお食事をしていらっしゃるところをお見かけしたことがありますが」
「それは、面白い情報だな。それ、いつのこと?」
「さあ、2、3ヶ月前でしょうか」
「2、3ヶ月前?もしかしたら、社長のいとこと一緒のところを見たのかもしれないな。姪に聞いた話では、社長のイギリスにいるいとこが離婚した後、豪華客船に乗って世界旅行をしていて、2、3ヶ月前その船がメルボルンに寄って、その間社長のところに泊まっていたって話だから」
「そうですか」といったものの、胸はドキドキしてくるのを禁じえなかった。
それから、デイビッドと何の話をしたか、はっきり覚えていない。
デイビッドと別れて、自分の席に戻ったとき、やっと喜びをかみ締めることができた。彼はやはり私の思ったとおり、独身だったのだ。万歳!
その晩、アーロンにもダイアナにも私の興奮を悟られないようにするのに苦労をした。

著作権所有者:久保田満里子


コメント

関連記事

最新記事

カレンダー

<  2026-10  >
日月火水木金土
        01 02 03
04 05 06 07 08 09 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

記事一覧

マイカテゴリー