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私のソウルメイト(29)

その後、ロビンは予定通りお嬢様と結婚しましたが、子供もできなかったようでした。ロビンの噂は時々耳に入って来ましたが、実際にロビンと会って口をかわすことはそれ以来ありませんでした。私はその後アーロンとの間に2人の息子と1人の娘をもうけました。息子の一人は2歳のとき天然痘にかかり、死んでしまいましたが。その人生では、肺病になったアーロンを見送った後、アーロンの後を追うように1年もせずに私は子供たちや孫に囲まれて、48歳の人生を終わったのです。死に行く私は、アーロンとの平々凡々とした結婚生活を思い起こすとともに、初恋の人、ロビンのことも思い出していました。その生涯で胸をときめかせた人は、ロビン一人でした」
ここまで言うと、マクナマラ先生は、私を呼び起こしてくれた。パッチリ開けた私の目は涙で濡れていた。
マクナマラ先生から「あなたの知りたかった謎が解けましたか?」と聞かれ、私は「ええ」と頷いた。
私は今見た自分の過去世に衝撃を受けていた。
「それじゃあ、もうこれで、催眠のセッションは打ち切りにしますか?」と聞かれた。
「先生、先日読んだブライアン・ワイスの本によると、ソウルメイトと言うのは過去世で何度も一緒に生きているということですが、今私が見た過去世以外でも私はソウルメイトとかかわってきてるのでしょうか?」
「勿論、そうですよ。人間は何度も生まれ変わって来ていますからね。いろんな過去世を持っているんですよ」
「そうですか。私は今見た過去世以外にも、今の夫と過去世ではどんな関係だったか知りたいので、続けたいのですが、、」
「そうですか。それじゃあ、また来週予約をとってください」と言われ、私はまた受付で来週の金曜日に予約を取り、京子のアパートに向かった。
京子のアパートに行くと、京子は自分で紙で巻いたタバコのようなものを吸っていた。葉っぱをいぶしたようなにおいは、普通のたばこと違ったにおいがした。
「あんたが、タバコを吸うなんて知らなかったわ」と言うと、京子はいたずらっ子のようにウインクをして、
「これ、マリファナよ」と言った。
「えっ、マリファナ!どこで手に入れたの?」
「フランクの部屋にあったのをちょっと失敬してきたのよ」
私はあきれて二の句が出なかった。
「あんたも、吸ってみない?」と言う京子に「結構よ」と断った。
京子は「今日の退行催眠のセッションは、どうだった?」と、うつろな目を向けて聞いた。
「それがね、私はロビンの子を生んだんだけど、それが双子だったの。誰だったと思う?」
「さあね。私の知っている人だったの?」
「そう。ダイアナとエミリーだったのよ」
京子のうつろな目が、少し輝きを帯びた。
「へえ、それじゃあ、ダイアナとエミリーは、深いつながりがあったというわけね」
「そう。それもロビンの子供だったなんて思いもしなかったわ」
「そうか、そうか」と言いながら、マリファナを大きく吸って、京子はまた自分の夢の世界に戻っていっているようだった。
それ以上は京子は話し相手には、全くならず、私は早々に京子の城を引き上げた。
 私は、それから違った目でアーロンとダイアナを見るようになった。アーロンの性格は、あの時からちっとも変わっていないように思われる。そしてダイアナとエミリーを引き離すのは無理だと思った。結局ロビンと私は、一度心を惹かれあったが、それだけの関係だったのだ。私はアーロンとダイアナに対して少し優しい気持ちが持てるように思った。

著作権所有者:久保田満里子


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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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