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私のソウルメイト(55)

ちょうど、翌日が定例の会議の日にあたった。ロビンはいつものように「今日は会議で遅くなるから」と出かけていった。京子と私は、その夕方、ロビンの会社に出かけてロビンの車がある駐車場で彼の車が見える場所をみつけ、車を停めた。私の車は紫外線を遮断するためにガラスが黒っぽくなっているので、外からすぐに我々が乗っていることは分からないはずだ。それでも、私達だと分かると困るので、私も京子も帽子をかぶり、サングラスをかけておいた。
 午後五時の終業時間を過ぎると、三々五々人が駐車場に現れ、家に帰り始めた。金曜日なので、同僚と一緒に飲みに行く人もいるようで、グループで固まって一つの車に乗る人達も見られた。私の車の時計が五時半を表示した時、ロビンが車に近づいてくるのが見えた。ロビンは私達に気づく様子もなく車を発車させた。私は彼の車との車間距離を十分にとって車を発車させ、尾行を始めた。駐車場を出ると、車は一方通行の狭い通りに入った。ちょうどラッシュアワーで、ロビンの車はすぐに赤信号で止められた。ロビンとの車の間に他の車が二台割り込んだ。尾行を続けられるかどうか自信がなくなってきた。青信号に変わったが、ロビンの車の前の車が動かないため、ロビンの車は止まったままである。やっと前の車が動き出し、ロビンの車は右折した。私も早く右折しなければと気が焦ったが、私の前の車は左折しようとしても、込んでいて左折できず、そのまま信号は赤に変わってしまった。私は京子に「これじゃあ、尾行なんて無理だわ」とぼやいた。いらいらしていると一分でも永遠に感じられる。やっと信号が青に変わり、前の車が左折し、やっと自分の車を右折できた。もうロビンの車はとっくに見えなくなっているだろうと半分あきらめていたのだが、ロビンの車は三台先で信号待ちで停まっているのが見えた。それから、ロビンの車は直進をして市街地を出た。そうすると、街中とは違って車の流れがスムーズになり、このまま尾行が続けられそうで、私は安堵のため息をついた。それから十五分間まっすぐ走った後、ロビンの車は、とあるホテルの駐車場に入っていった。私たちも駐車場に入ったが、今度は尾行しているのがばれないかとひやひやし始めた。ロビンが車を停めたのを確認して、私も空いている所をみつけ駐車した。ロビンはアタッシュケースを持つとホテルの建物の中に消えた。私達は急いで車を降り、彼の後を追った。私達がホテルに入っていくと、ロビンがエレベーターに乗るのが目に入った。エレベーターのドアがしまった後、私たちは彼が何階に行くのか、エレベーターの行方を追うと十八階で止まった。だから、私たちも十八階に行くことにして、ドアの開いたエレベーターに乗り、十八階のボタンを押したが動かない。部外者の侵入を防ぐため、カードを持っていないと行けない所のようだった。仕方なく十八階に行くのは諦めて、ロビーで彼が降りてくるのを待つことにした。ロビンは普通この日は十一時頃うちに帰って来るので、十時半まではロビーに下りてくるとは思えなかった。そうすると、ロビンが降りてくるまでには時間がたっぷりある。だから、ロビーがよく見えるカフェテリアでロビンが降りてくるのを待ちながら夕食をとることにした。ステーキを注文したのだが、そんなに早くロビンが降りてくるはずはないと思いながらも、もしかしたら今日に限って早く降りてくるということは十分考えられる。そう思うと、いつロビンが降りて来るか気が気ではなく、余り食べた気はしなかった。
「こんなホテルで会議をするのかしら?何だか、怪しいわね」と京子が言った。
「私も何が起こっているのかさっぱりわからないわ」
「これから、どうする?ロビンが降りてきたところを捕まえて、彼に直接聞く?それともうちに帰るのを待ってから問い詰める?」
「ここで、騒動を起こしたくないわ」
「じゃあ、家に帰ってとっちめるのだったら、ずっとここにいても仕方ないわね」と京子が言う。
「あなたの言うのはもっともだと思うけど、そんなホテルに行っていないと言われれば、それまでよ」
「じゃあ、駐車場にとめてある彼の車を写真に撮るって言うのは、どう?ホテルの名前が入るように写真を撮るの」
 「それは、いいわね。そうしよう」
話がまとまると、二人で駐車場に戻って携帯電話で彼の車の写真を撮り、うちに帰って彼を待つことにした。京子も彼の帰りを待って、彼がどう答えるのか聞きたがったが、私は、京子を巻き込むと、たいしたことではない事も大騒ぎになる可能性もあると思い、明日報告するからと彼女を説得して、彼女をうちまで送り届けて家に戻った。
 その夜もロビンは十一時頃戻って来た。私はいつもはベッドに潜り込んでいる時間なのだが、今日はネグリジェに着替えないで彼の帰りを待っていた。居間のソファに余所行きのドレスを着て座っている私を見て、ロビンはちょっと驚いたようだったが、
「やあ、今日はどうしたんだ?まだ起きていたのか?」と微笑んでキスをした。
「ロビン、今日どこに行ってたの?」
「出かける前に言わなかったっけ?今日は会議があって遅くなったんだよ」
「会議って、何の会議?」
「会社の企画の会議だよ」
「会社の会議にどうしてホテルを使わなければいけないの?」
ロビンはぎょっとした表情で
「どうしてホテルに行ったって、知っているんだ?」
と聞いた。そこで、さっき撮った写真をコンピュータを使ってプリントしたのを見せた。
「これ、見て。あなたの車が今日ホテルの駐車場に停まっていたのよ」
写真を手に取ると、ロビンは不思議そうに
「だれが、こんな写真を撮ったんだ?」と聞く。
「ねえ、ホテルで今晩何をしていたの?」
「ははあ。君は僕が浮気をしているとでも思って、探偵でも雇ったのか」と面白そうな顔をして言うので、私のほうが煙に巻かれてしまった。
「ねえ、ホテルで何していたの?」
私はどうしても真相をつかみたくて、彼に食い下がった。
「僕って、そんなに信用がないの?」
「私、本当のことを知りたいだけなの」
ロビンは、困ったような顔をした。理由を言ったほうがいいのか言わないほうがいいのか、迷っているようだった。

著作権所有者:久保田満里子
 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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