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私のソウルメイト(最終回)

(58)
 ロビンの葬儀は事故から一週間後、しとしと降る雨の中で行われた。雨の日にも関わらず、私はサングラスをかけていた。この一週間泣き続けで目がはれ上がり、見るも無惨になった顔を隠すためだ。新聞にも死亡通知を出したせいか、弔問客は千人にも及んだ。全員式場に入りきらなくて、急遽外にテントを張って、スピーカーを取り付ける始末だった。ロビンの姉のキャロリンもアメリカから飛んできてくれた。キャロリンは私を見ると目に涙をためて、黙って肩を抱いてくれた。弔問客は会社関係の人も多く、ほとんど私の知らない人だったので、デイビッドとロビンの秘書のアマンダの姿を見かけた時はほっとした。ロビンと面識のない翻訳仲間のジェーンも来てくれた。ジェーンは「お葬式ってね、死んだ人だけのためにあるんじゃないのよ。生き残った人を励ます意味もあるのよ。残念ながらロビンさんに生存中にお目にかかる機会はなかったけれど、あなたがあんなにロビンさんにほれ込んでいたから、ロビンさんを失ったあなたがどんなに嘆いているかと思うと心配になって、あなたを慰めるために来たのよ」と言ってくれ、二人で肩を抱き合って泣いた。葬儀の会場ではロビンのipodをスピーカーにつなげて、音楽を流した。ビバルディーの「四季」が流れてくると、居間に座ってCDを聴いていたロビンの姿が目に浮かんで、もう涙は枯れて出ないと思っていたのに、また新たに目が潤ってきた。火葬された後、ロビンの遺骨は墓地に埋められた。その墓石には
「もとこの愛する夫、ロビン・グーレイ、ここに永眠する。二千十二年八月十九日」と書かれていた。
 私は、お葬式の後も、腑抜けのようになっていた。ダイアナと京子が心配して毎日食事を運んでくれなかったら、餓死していたかもしれない。そんなある日、玄関のインターフォンが鳴って出てみると、アーロンが立っていた。アーロンはダイアナからロビンの死を知らされて、心配したから来たと言った。
ソファーに腰を落ち着けたアーロンは、単刀直入に
「復縁しないか?」と、私に言った。
私は、自分の耳を疑った。
「リズに逃げられちゃったの?」私は皮肉をこめて聞いた。
「いや、リズは乳がんで一年前に死んでしまったんだ」
私はそれを聞いて言葉を失い、ソファーから立ち上がって、庭をながめた。そして、しばらくして、おもむろに言った。
「あなたは私よりリズを選んだのよ。そのリズが死んだからと言って、あなたにとって二番目の存在でしかなかった私に戻ってこいっていうのは、虫がよすぎるんじゃない?」
アーロンは「そう言われると、身もふたもない。でも、リズと結婚した後も君には申し訳ないと思っていたから、ロビンと結婚して幸せになったってダイアナから聞いて、安心したんだ。もしロビンがまだ生きていたら、こんなこと思いもしないし、言わないよ。でも、お互いに第二の青春を楽しんだ後パートナーを失なってしまったんだよ。ロビンが亡くなったと聞いて、僕はもとのように静かに老年を君と過ごしたいと思うようになったんだよ。今すぐ返事をくれとは言わないよ。でも、考えてみてくれないか」そう言って、帰って行った。
その晩、私はロビンの写真に向かって問いかけた。
「ねえ、アーロンが元の鞘にもどろうと言っているけど、どうしたらいいと思う?」
そうすると、空耳だったのかもしれないが、ロビンの声が聞こえたように思った。
「僕は賛成だよ。君と僕がソウルメイトなように、君にとってアーロンもソウルメイトなんだよ」
「それじゃあ、また来世でも、あなたに会えるの?」
「勿論だよ。また来世で僕たち三人どんな人生を送るかと思うと、楽しいじゃないか」
 翌日、私はアーロンに復縁の申し出を受けることを伝えた。私たちの復縁を一番喜んだのは、ダイアナだった。その週末アーロンとダイアナと三人でダイアナの二十一歳の誕生パーティ以来初めて一緒に食事をした。その帰り、ダイアナが私とアーロンの腕をとって言った。「結局パパとママはソウルメイトだったのよ」
私は、ダイアナの言葉に思う。私には二人のソウルメイトがいるのだ。アーロンとロビンと。来世でもまた三人がどんな出会いをするのかと思うと楽しくなり、久しぶりに私の顔に笑顔が浮かんだ。

 

参考文献
ブライアン・ワイス 「前世療法-米国精神科医が体験した輪廻転生の神秘」
山川こう矢、亜希子訳 (PHP)
ブライアン・ワイス(2001年) 「魂の療法」山川こう矢、亜希子訳 (PHP)
Whitten, Joel & Fisher, Joe (1986) Life between lives. Warner Books: New York

著作権所有者:久保田満里子

 

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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