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六度の隔たり(最終回)

 夏美はジーナから来た絵葉書を何度も読み返した。ヨークから来た絵葉書で、ヨーク寺院の写真がついていた。文面は簡単だった。
「親愛なる夏美とトム、
7月18日にメルボルンに帰ります。そして、12月に結婚することにしました。だから、12月にはどこにも行かないでメルボルンにいてね。
ラブ ジーナ」
夏美はジーナが再婚をすることにしたことを聞いて、感慨深かった。思えばジーナからベンのことを打ち明けられてもう半年以上の月日がたったのだ。一時はジーナと感情のもつれもできたが、それも過去のことだ。 ベンを探すためにローラ、ミア、ジェーン、クリス、シェーンが手を貸してくれた。自分も含めば結局ジーナとベンの間には6人の人間が介在したわけである。これって6度の隔たりを証明したことになるのかなと夏美は考えたが、それよりもジーナとベンの恋が成就したと思うと、自分のことのように心の底から喜びが湧きあがってきた。背中をどんと叩く者がいた。驚いて振り返るとトムだった。
「トム、おばあちゃん、結婚するんだって」とトムを抱き上げながら言うと、
「え、おばあちゃんが花嫁衣裳を着るの?」と言ってきょとんとした顔で夏美を見上げる。
夏美はジーナの花嫁衣裳を想像するとおかしくなった。
「さあね。それはおばあちゃんがイギリスから帰ってきて聞くことにしましょうね。
でも、おばあちゃんの花嫁衣裳を見たら、天国のパパは、きっと腰を抜かすでしょうね」
そう言うと、トムと夏美は顔を見合わせてクスクス笑った。幸せな午後の一時だった。


著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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