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謎の写真(2)

良子は、出かける前に、できるだけインターネットで調べられることは、調べておこうと、前島豊の名前で検索してみた。

すると、一人前島豊の検索にひっかかった人物がいた。気功師と書かれていた。横浜在住と書かれているから、この人物が、名古屋在住の前島豊とは思えなかったが、念のためにメールを送ってみた。

「私はオーストラリア在住の川口良子と申しますが、名古屋在住の前島豊さんを探しています。前島豊さんは、新聞社に預けていた友人の持っていた写真を、その持ち主だと言って持って行ったのですが、その後連絡がとれなくなりました。もし写真を持って行った前島豊さんでしたら、ご連絡ください」

良子の出したメールには、すぐに返事が来た。

「お探しの前島豊は、残念ながら、ぼくではありません.前島豊」

簡潔すぎる返事に、良子は拍子抜けした。こうなれば、名古屋に行って、調べる以外ない。しかし、どうやって調べればいいのか、見当もつかない。どうするかは、日本についてから考えようと、良子は諦めの気持ちで、シャーリーと一緒にオーストラリアを発った。

良子とシャーリーが名古屋空港に降り立ったのは、5月の五月晴れの日だった。一旦、名古屋城近くのホテルにチェックインして荷物をおろすと、早速米川を尋ねることにした。今のところ、唯一の手がかりは、米川しかいない。

米川の勤めている新聞社は、名古屋の中心部にある大きなビルにあった。大きなロビーにある受付で、米川を呼び出してもらうと、ワイシャツの袖をまくり上げた米川がすぐに現れた。良子が今日の訪問をメールで知らせておいたからである。米川とは3年ぶりの再会だったが、お互いの親交を温める時間はなさそうで、米川はすぐにロビーの片隅にある喫茶店に良子とシャーリーを誘った。

皆のコーヒーを注文すると、米川は早速話の核心に入った。

「この度は、本当に申し訳なかった。前島と言う人物は、僕の外出中に来たので、僕は実際には会っていないんだ。写真を手渡した同僚から、詳しいことを聞いたんだが、30代ぐらいのメガネをかけたサラリーマン風の男だったそうだ。その同僚、絵を描くのが得意なので、似顔絵を書いてもらったんだが、役に立つかなあ」と、米川はその似顔絵を良子とシャーリーの前に置いた。そこに描かれていたのは、いかにもインテリの優男という感じで、髪は七分に分け、丸顔だが、顎のところは少しとんがった感じである。

「背は高いの?」と、良子はその似顔絵を手にとって見ながら聞くと、

「同僚と同じくらいの高さだったということだから、170センチ前後というところかな」

「その同僚の人には、写真の人物との関係しか言わなかったのね。ねえ、その同僚の人に会わせてもらえないかな。色々聞きたいから」

良子がそう言うと、米川は苦笑いをしながら、

「おいおい、なんだか刑事みたいだな」と言った。

良子は少し照れたように笑って、

「そうね。推理小説の読み過ぎかもね」と答えた。

「それじゃあ、柳沢を呼び出してもらうよ」と、米川は席を立ち、受付に向かった。

その間に良子はシャーリーに、今米川から聞いたこと、そして写真を手渡したという柳沢と言う米川の同僚を呼び出してもらうことを説明した。シャーリーは、「じゃあ、その柳沢という男が、受取人のことを聞かないで写真を渡したバカっていうことね」と言うので、良子は慌てて、

「そんなこと言っちゃあダメよ。その人英語が分かるかもしれないから」とシャーリーをいさめた。

米川は、良子たちのいるところに戻ってくると、

「今柳沢が来るから、柳沢に詳しいことを聞くといいよ。悪いけど、僕今仕事がたまっているので、これで失礼するよ」と、ウエイトレスの持ってきたコーヒーを一気に飲み干すと、「じゃあ、また」と喫茶店を出て行った。それから2分もしないうちに、きちんとネクタイを締めた、まだ大学出てホヤホヤといった感じの若い男が喫茶店に入ってきて、客席を見回したあと、良子たちの席に近づいてき、「シャーリーさんと良子さん?」と流暢な英語で聞いた。

「はい、そうです」と良子が日本語で答えると、すぐに良子たちの向かいの席に座った。

「僕、柳沢です」と、良子とシャーリーに名刺を渡した。

英語で「写真を受け取った男について聞きたいと言うことですが、どんなことをお話すればいいのでしょうかね」と、悪びれる様子もなく言うので、シャーリーはカチンときたようだ。

「元々は私が持つ権利のあった写真なのだから、受取人の連絡先ぐらい聞いてもいいじゃありませんか。その男、私のことを何も聞かなかったんですか?」

「はあ、聞きませんでした。それに、シャーリーさんは写真を持ち主に返したいと言うご希望で、僕たちはそれに協力したわけで、写真を持ち主に返すことはできたのですから、ご希望がかなったわけではありませんか?」

柳沢の言うことも一理ある。

「それはそうですが、シャーリーとしては、あの写真に写っていた人がどんな人だったか興味があるので、その人から色々お話を伺いたいと思って、日本に来たわけです」

「そうですか」

「それで、写真を取りに来た人を是非探し出したいのですが、何か手がかりになるような物は、ありませんか?」

「そうですねえ。特に目立った特徴のある人ではなかったですからね。背だって特に高くもなく低くもなかったですよ」

著作権所有者 久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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