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結婚相手(2)

 会社が終わるとすぐに喫茶店にかけつけた。大村はその3分後に姿を見せた。

「一体、工藤さんに、どんな返事をしたの?あんまり良い返事をしたようには見えないけれど」

大村は、私の質問を無視して言った。

「ねえ、君、僕の事をどう思っているの?」

「なぜ私の話がここにでてこなければいけないの。今は工藤さんの話をしているのよ。工藤さんをどう思っているの?」

大村はため息をつきながら、

「正直。僕のタイプじゃないね」と言う。

「どうして?」

「あの子、内気で暗いんだよなあ。それによく病欠するだろ。体も弱そうだし」

「と、いうことは、嫌いなわけね」

「まあ、率直に言えば、そうだ」

「じゃあ、あなたの好みのタイプってどんな女性なの?」

そう聞くと、待ってましたとばかりに大村の答えが戻って来た。

「君みたいな女性」

意外な答えに、私は一瞬言葉を失った。

「工藤さんには、どう言ったの?」

「僕は白川さんが好きだと正直に言ったよ」

「えっ?」

それで、今朝の幹江の言葉の謎がとけた。

「私は、あなたのことを何とも思っていませんからね。工藤さんに変な誤解をさせるようなことは、言ってほしくなかったわ」

 そう捨て台詞を残して、私は席を立って、喫茶店を出た。

 幹江は私が裏切ったとうらんでいるだろう。そう思うと、翌日から会社に行くのがつらくなった。一瞬会社をさぼろうかと思ったが、さぼったところで、何も解決しないと、重い足を引きずりながら、翌日出勤した。

 おそるおそる幹江の席を見たが、幹江は来ていなかった。少しほっとした。その日、結局幹江は来なかった。その日は、幹江と顔を合わさずに済むことを感謝しながら、一日をすごした。大村の方には目もくれなかった。

 幹江は次の日も欠勤した。そして、その次の日も。幹江の姿が見えなくなって一週間たったとき、朝会で、支店長から幹江が退職したことを知らされた。

 私の胸の中で、幹江に対しての悪いことをしてしまったという思いがふくらんだ。でも、自分のせいではない。大村が悪いんだと、大村に責任を押し付けようとする自分もいた。私は、幹江の退職以来、おしゃべりな女から寡黙な女に変身した。幹江の退職は、大村にも衝撃を与えたようで、大村の席のほうからも、いつもの活発な声が聞こえなくなった。

 幹江が退職して一年たったころ、珍しく大村が私の席に来て言った。

「話したいことがあるんだけれど、今晩一緒に食事できないかな」

なんだか、幹江の言葉を思い出した。幹江も一年前、私に同じような言葉で誘った。

一瞬迷ったが、結局、誘いに乗ることにした。大村が言いたいことに興味をもったからだ。大村は何が言いたいんだろう?

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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