結婚相手(2)
更新日: 2016-12-11
会社が終わるとすぐに喫茶店にかけつけた。大村はその3分後に姿を見せた。
「一体、工藤さんに、どんな返事をしたの?あんまり良い返事をしたようには見えないけれど」
大村は、私の質問を無視して言った。
「ねえ、君、僕の事をどう思っているの?」
「なぜ私の話がここにでてこなければいけないの。今は工藤さんの話をしているのよ。工藤さんをどう思っているの?」
大村はため息をつきながら、
「正直。僕のタイプじゃないね」と言う。
「どうして?」
「あの子、内気で暗いんだよなあ。それによく病欠するだろ。体も弱そうだし」
「と、いうことは、嫌いなわけね」
「まあ、率直に言えば、そうだ」
「じゃあ、あなたの好みのタイプってどんな女性なの?」
そう聞くと、待ってましたとばかりに大村の答えが戻って来た。
「君みたいな女性」
意外な答えに、私は一瞬言葉を失った。
「工藤さんには、どう言ったの?」
「僕は白川さんが好きだと正直に言ったよ」
「えっ?」
それで、今朝の幹江の言葉の謎がとけた。
「私は、あなたのことを何とも思っていませんからね。工藤さんに変な誤解をさせるようなことは、言ってほしくなかったわ」
そう捨て台詞を残して、私は席を立って、喫茶店を出た。
幹江は私が裏切ったとうらんでいるだろう。そう思うと、翌日から会社に行くのがつらくなった。一瞬会社をさぼろうかと思ったが、さぼったところで、何も解決しないと、重い足を引きずりながら、翌日出勤した。
おそるおそる幹江の席を見たが、幹江は来ていなかった。少しほっとした。その日、結局幹江は来なかった。その日は、幹江と顔を合わさずに済むことを感謝しながら、一日をすごした。大村の方には目もくれなかった。
幹江は次の日も欠勤した。そして、その次の日も。幹江の姿が見えなくなって一週間たったとき、朝会で、支店長から幹江が退職したことを知らされた。
私の胸の中で、幹江に対しての悪いことをしてしまったという思いがふくらんだ。でも、自分のせいではない。大村が悪いんだと、大村に責任を押し付けようとする自分もいた。私は、幹江の退職以来、おしゃべりな女から寡黙な女に変身した。幹江の退職は、大村にも衝撃を与えたようで、大村の席のほうからも、いつもの活発な声が聞こえなくなった。
幹江が退職して一年たったころ、珍しく大村が私の席に来て言った。
「話したいことがあるんだけれど、今晩一緒に食事できないかな」
なんだか、幹江の言葉を思い出した。幹江も一年前、私に同じような言葉で誘った。
一瞬迷ったが、結局、誘いに乗ることにした。大村が言いたいことに興味をもったからだ。大村は何が言いたいんだろう?
著作権所有者:久保田満里子