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前世療法(6)

リリーは、参加者の顔を眺めまわし、

「皆さん、過去生が見えましたか?見えなかった人、いますか?」

すると、3人ほど手を挙げた。手を挙げた中に玲子がいて、とても残念そうな顔をしていた。

「10人中3人見られなかったなんて、私の予告したとおりになりましたね」と、リリーは至極満足そうに言った。

「見られなかった人、個人セッションもしますからね、個人セッションに来てください。さあ、何か見れた人。どんなものが見えましたか?」とリリーが左から時計回りで一人一人の見たものを言わせていった。最初に発表した女性は、

「私はクレオパトラでした」と言ったのを聞いて、佐代子は思わずくすっと笑ってしまった。クレオパトラのイメージとは程遠い、太っちょのニキビだらけの丸顔の、とてもじゃないが、美人とは言い難い女性の口から出た言葉なので、よけいにおかしかったのだ。リリーがどう言うか、興味を持ったが、リリーは、

「そうですか」と言って、否定も肯定もしなかった。

次の女性は、「私は、過去生では男でした。ローマ人で、戦争で凱旋して、ローマにもどっていく場面を見ました」と言った。

「その時、どんな気持ちでしたか?」とリリーが聞くと、

「とても誇らしい気持ちがしました」

「今の自分と結びつけて、その過去の自分は、何を教えてくれていると思いますか?」

「さあ、そこまでは、ちょっと分かりませんでした」と、その女性は正直に答えた。

その次は、参加者で唯一の男性だった。

「僕は、中世のヨーロッパにいました」

佐代子は『あら、私と同じだわ』と思った。

「あなたはそこで何をしていましたか?」

「僕は戦争に駆り出されていました。でも、本当は僕は農民で、戦争なんかに行きたくなかったんです。僕の村に、僕の好きな女性がいて、結婚の約束をしていたので、一刻も早く村に帰りたかったんです。でも、僕は馬に乗った敵の騎兵に槍で一突きされて、死んでしまいました」

「その時、どんな気持ちでしたか?」とリリーが聞いた途端、見る見る間にその青年、正二の目に涙があふれ出し、

「彼女と結婚の約束をしていたんです。その約束が果たせなくて、とても悲しいかったです」と言うと、手の甲で、あふれ出る涙をぬぐった。

リリーが物静かに、

「では、今世で、その恋人に会えましたか?」

「それが、よく分からないのです。実は僕今婚約をしているんですが、なんだか、気が進まないんです。彼女はとってもかわいい人で、彼女に積極的に言い寄られた感じなのですが、どこか心の奥底で、なんだかしっくりこない物を感じているんです。そしたら、先日ほっそりした少女が夢の中で現れたんです。婚約者でないことだけは確かなのですが、彼女は一体何者なのか知りたいのです。この前世療法のワークショップに参加したのも、もしかしたら、その少女が何者か分かるかもしれないと思って、参加したんです」 

その正二の話を聞くと、まだ自分の順番ではないのに、佐代子は、思わず、口をはさんでしまった。

 

著作権所有者:久保田満里子

 

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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