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前世療法(17)

第九章 1年後

 佐代子が正二に最後に会って、1年の年月が流れた。その間、佐代子は男探しをやめた。玲子はそんな佐代子を見て、

「随分、変わっちゃったねえ」と驚いていた。

「最近医学が進んだから、40歳までの出産は大丈夫だって、新聞に書いてあったわ。だから、焦らないことにしたわ」

佐代子は、この1年間、何回か前世医療法に通った。そして、ある日、驚くべきことを発見した。

いつものように、催眠状態に入った佐代子は、あのヨーロッパの中世の村にいた。そこにいる佐代子、いやハリオットは、まだ10歳にも満たない幼いお提髪の可愛い子で、これまた12歳くらいのトムと、追いかけっこをしている。鳥が鳴き声を聞き、森の大きな枝の間から漏れる光を浴びながら、二人はキャッキャッと言いながら、駆け回っている。その二人の耳に遠くから、「トム!」と呼ぶ女の人の声が聞こえてくる。

「あ、ママが呼んでいる」とトムは、足を止めて、

「ママ、ここにいるよ」と叫んだ。

その二人の前に、息をハーハ―させながら、太っちょの人のよさそうな女の人、つまり、トムの母親が姿を見せた。その母親の目を見て、佐代子はハッとなった。それは、キムだった。キムは、トムの母親だったのだ。そこで初めて、佐代子はキムが正二にあれほどまでに執着を感じたのか理解できた。

玲子にこの話をすると、「えっ!そうだったの。正二さんにこのことを知らせてあげたら」と言う。佐代子も、携帯に電話をかけかけたが、呼び出しのボタンを押す前に思いとどまった。正二とは1年間、会わないことになっている。

それからの佐代子は再会の約束の日が来るのを、待ち焦がれた。正二に会ったら、あれも言おう、これも言おうと、言いたいことが山ほどあった。それでも時折不安に駆られることがある。「もしかしたら、正二はほかの女性を好きになっているのではないかしら」と。その度に「そんなこと、ありえないわ。だって私たちはソウルメイトなんですもの」と不安な気持ちを打ち消した。

 明日がやっと再会をする約束の日となった。佐代子はそわそわして、どんな服を着ようか、どんな髪型にしようかと、落ち着かない。そんな佐代子を見て玲子がからかった。

「まるで、恋人に会いに行くみたい」

「だって、正二さんは、私の恋人だもの」

「でも、正二さんにほかに好きな人ができていたら、どうするの?」玲子が水をさした。

「そんなこと、99%、ありえないわ」

「でも、1%の可能性はあるって言うわけね」

佐代子はこの時ほど玲子をうっとおしいと思ったことはない。

「そんなに意地悪な事しか言えないのなら、明日正二さんと会ってどうなったか、教えてあげないわ」

「あ、ごめんごめん。意地悪のつもりで言ったんじゃないのよ。その可能性も否定できないのなら、それなりの心の準備をしておかないと、あなたまでキムのように自暴自棄になるんじゃないかって、親友として心配してあげているだけよ」

「ともかく、明日着ていく服は、これでいいかしら?」と、佐代子は白いレースでできているワンピースを着て、真珠のネックレスをした。

「うん、ばっちりよ」と玲子に言われ、デートの準備は整った。後一晩寝ると彼に会えると思うと、その晩は、なかなか眠られなかった。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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