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家族(最終回)

その翌週はディーンの養父母に食事を招待され、初めてディーンの養父母に会った。養父は眼医者、養母は主婦だと言う。最近主婦というのは激減しているのだが、主婦だったからこそ、ディーンにつきっきりでディーンの面倒を見てくれたのだろう。子供が大好きと言う養母は、ディーンのことを誇りに思っているようで、ディーンを見る目は優しい母親の目をしていた。別れ際に、「これれからも、私たちに遠慮せず、サイモンに会ってやってくださいね」と養母に言われ、マーガレットもサイモンも養父母と抱き合って互いの頬にキスして別れた。

 それからマーガレットがイギリスを発つまで、三人で週に一回は会って、三人のきずなを取り戻した。マーガレットはイギリスにもう一組の家族ができたような気持になった。しかし、マーガレットもサイモンも再婚する約束まではてきなかった。マーガレットにはオーストラリアに娘たちもいて、仕事もある。サイモンも今働いている会社を辞めて、オーストラリアで再出発することには躊躇をした。再婚するかどうかは、またお互いによく考えてからにしようと言うことになった。ディーンからは、「オーストラリアに遊びに行きたいな。そして、妹たちにも会ってみたい」と言われた。マーガレットがイギリスを発つ日には、サイモンもディーンも見送りに来てくれた。周りの人から見れば、普通の家族の一員が旅行に出かけるくらいのことにしか見えなかっただろう。二人と別れて機上の人となったマーガレットの頭には、この一連の出来事をどのように、娘たちに話したらいいだろうかと言うことばかりが駆け巡っていた。

 オーストラリアに帰ってきたマーガレットは、イギリスでできた新しい家族を、ケイトとガブリエルにどう話したらいいものかと思い悩んだ。

 やっと話をする勇気が出たのは、オーストラリアに帰って3日目のことだった。マーガレットはケイトとガブリエルと三人で夕食を囲んだ時、おそるおそるまず初恋の人だったサイモンと再会したことから話し始めた。

「再婚するの?初恋の人と再婚するなんてロマンチックじゃない。お父さんが出て行って、ママったらかなり落ち込んでいたから心配したんだよ」と二人の娘たちに言われ、慌てて、「まだ、再婚するって決めたわけじゃないのよ。向こうだって仕事のこともあるし」と言ったが、娘たちは取り合ってはくれなかった。ティーンエージャーの娘たちもボーイフレンドがいるので、母親が再婚しても当然だと思ってくれたようだ。ケイトは「私たちに遠慮することなんてないんだよ。実は二人でお母さんもイギリスでいい人が見つかればいいねって話してたんだよ」とまで、言ってくれた。ひとまずサイモンのことは話したが次にディーンのことを話さなければいけない。これはサイモンの話をする以上に勇気がいった。

「実はね、サイモンとの間には子供ができたんだけれど、高校生だったし、両親に養子に出すように言われて、養子に出してしまったの。その子にも会ったの。名前はディーンと言って、素敵な青年になっていたわ」

「えっ?私たちにお兄さんがいるの?」

二人とも目をまん丸くして驚くと、次に出てきたケイトの言葉は、

「やったあ!私ね、いつもお兄さんが欲しかったのよ。お兄さんのいる友達を見てうらやましかったんだ」だった。

「ディーンはそのままイギリスで暮らすんだけど、今度休暇で遊びに来たいって言っていたわ」とマーガレットが言うと、

「うわー。お兄さんに会えるなんて、楽しみだわあ」と二人の顔は久しぶりに輝きを取り戻した。

 娘たちの喜ぶ姿を見て、マーガレットは心の底にたまっていたわだかまりがなくなり、喜びが湧き上がってきた。そうだ。私だって幸せになることができるんだ。離婚に打ちのめされて人生が終わったような暗い気持ちで過ごしていたが、私にだって第二の人生が待っているのだ。「それじゃあ、ディーンにいつ来てもいいって、メールしておくわね」とマーガレットの顔に笑みが広がっていった。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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