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おもとさん世界を駆け巡る(26)

タイクン一座がイギリスに戻って来た千八百六十八年の終わり、おタケさんは、すでにタンナケルの子を身ごもっていて 、翌年の二月七日にはお種さんという娘をイギリスのボルトンと言う町で出産した。
おもとさんは自分の子供たちの行く末が心配ではあったが、タンナケルは、二人の間にできた三人の子供達は自分が育てると言ってきかなかった。おもとさんは、子供たちのことは諦め、鏡味五太夫と結婚する決意を固めた。居心地は余りよくなかったが、結婚した後もタンナケルの率いる一座に二人とも籍をおいて舞台に出た。おもとさんにとって、タンナケルとおたけさんの仲睦ましい姿を目の前で見るのは忌々しかったが、子供たちと離れるのはもっと嫌だったのだ。だから、そのままずるずると不本意ながらタンナケルの率いるグレート・ドラゴン座に残り、鏡味と共に女綱渡りとして舞台に立ち続けた。。
鏡味と結婚して三年後の千八百七十二年に、おもとさんは鏡味との間の子供を身ごもり、翌年男の子を生んだ。この子は、リトル・ゴダイと名付けられた。おもとさんにとっては、4人目の子供であったが、鏡味にとっては、初めての子であり、鏡味の喜びようはおもとさんも苦笑いするほどで、鏡味は子煩悩だった。リトル・ゴダイをサーカスの興行に連れ歩いたが、サーカスの団員からも可愛がられすくすくと育っていった。リトル・ゴダイの1歳の誕生日が来て間もなくのことだった。タンナケルが長男のタンナケルを虐待したと、近所の人から警察に通報があり、10ポンドの罰金刑を受けた。
それを聞いて、おもとさんは元夫のタンナケルに文句の一言も言いたくなった。
「タンナケルに、何をしたんです」詰問するおもとさんを苦々しい顔で見ると、
「サーカスの練習は嫌だと駄々をこねるから、手首を縛って押し入れに入れて、ご飯をやらなかったんだ」とタンナケルは、何が悪いというように語気を強めた。
タンナケルが生まれた時、あんなに喜んでいた男が、こうも変わってしまうのかと思うと、腹立たしさよりも哀しみの波ががおもとさんに押し寄せた。
タンナケルはおもとさんの悲しそうな顔を見ると、それ以上言葉が出なくなったらしく、顔をそむけて立ち去った。しかし警察に通報されてこりたのか、それからタンナケルを虐待することはなくなった。

著作権所有者:久保田満里子


 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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