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おもとさん世界を駆け巡る(29)

18年ぶりの再会で、お福が余りにも腰が曲がった老婆になっているので、おもとさんは、しばらく誰だったっけと考えたくらいである。
「リトル・タンナケルおぼっちゃまやポリーお嬢様、ネリーお嬢様はお元気でいらっしゃいますか」とおもとさんの今の現状を知らないお福に尋ねられ、一瞬喉の奥に塊が詰まったような感じがして、しばらく下を向いたおもとさんは、ようやく顔を上げると、「今、あの子たちがどうしているか、知らないのよ」と言うとお福は驚いた風で、「どうしてです?」と目を丸くして聞く。
「実はタンナケルとは別れて、今は鏡味ゴザイユと一緒なの。リトル・タンナケルたちは、今父親と一緒にイギリスにいるわ」
「そうだったんですか。いえ、昔外人居留地で知り合ったおつねさんと言う人から、フレデリックからタンナケルと言う名前に変えられたご主人様がロンドンと言う所に日本人村をつくられたと聞いて、随分華々しくご活躍されているのだろうと思っていたのですが。そうだったんですか」と言うと下を向いて眼をしょぼしょぼさせた。
おもとさんは初めて日本人村と言うのを聞いた。
「日本人村って、何?タンナケルはどんなものを作ったのかしら」と言うと、
「私もよく存じませんが、何でも百人くらいの職人さんや芸人さんを日本で雇って、ロンドンの町中に日本風の家を建てて、そこに住まわせて、日本人の生活をイギリス人に紹介するんだと聞きました」
「そう。タンナケルは、そんなことをしているの」
おもとさんは、そういいながら、口元をほころばせて、
「あの人らしいわね。何でも仰々しくするのが好きな人だったから」と言った。
ひとしきり昔話に花を咲かせた後、お福が帰ったのと入れ違いに、ゴダイユが外出先から戻ってきた。
おもとさんは、元夫の話をするのはなぜだかためらわれて、タンナケルの日本人村についてのうわさは黙っていた。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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