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人探し(22)

すでに2時近くなっていたので五十嵐が案内してくれた蕎麦屋はすいていた。
注文の品が来るまで、五十嵐は北川の住所を見て
「まず、この場所に行ってみよう。ここからどう行けばよいか、調べてみよう」と携帯でグーグルマップを出し、「東京都世田谷区八幡3-20」を検索した。
「ここからだと京浜東北線に乗って、大井町駅で降りて東急大井線に乗り換えて、自由が丘で降りて歩いて10分だそうだ」と言い、そばを食べた後、すぐに正雄を促して、書かれている場所に向かった。
 自由が丘駅で降りて、交番に寄り、住所を見せて、行き方を聞いた。
巡査に書いてもらった地図を頼りに、住所にたどり着くと、そこは大きなビルが建っていて、周りも商店やオフィスが並んでいて、住宅は見当たらなかった。ともかくビルに入ってみようと言うことになり、ビルに入って、ビルの中にある喫茶店に腰を下ろした。注文を取りに来たウエイトレスにコーヒーを頼んだ後、「この喫茶店の店主に話を聞きたいことがあるんだけれど」と言うと、そのウエイトレスは、目を輝かせて、
「お二人は刑事さんですか?」と聞くので、正雄と五十嵐は顔を見合わせて笑った。このウエイトレスは、テレビの刑事物が好きなのに違いない。きっと二人のうさんくさい男が、昼間喫茶店に入って来たので、何かの聞き込みと勘違いしたに違いない。
「いや、残念ながら、僕たちは刑事ではないだ。でも、人探しをしているんだ」
「えっ、人探し?それって、面白そう。マスターを呼んできますね」と言うと、そのウエイトレスはすぐにマスターを呼んでくれた。すぐに、チェックのチョッキを着た男が、二人の席に来た。
「誰かをお探しだそうですね」
このマスターもウエイトレスに劣らず好奇心丸出しで、正雄たちに聞いた。
「ええ、40年前、このビルが建つ前に、この土地に住んでいた人を探しているんですが」と、五十嵐が聞いた。
「40年前!それは、ちょっと分かりませんね。僕がここに店を出したのは20年前で、その時には、このビルができていましたからね」
「どなたか、昔のことをよくご存じの方を知りませんか?」
「さあ。このビルのオーナーなら知っているかもしれませんけど」
「オーナーの人の連絡先、教えてもらえませんか?」
「お宅はどなたですか?刑事さんではないとうちの子がいっていましたが」
「ああ、これは失礼しました。私はこういう者です」と、五十嵐が名刺を渡すと、
「弁護士さんですか?探しているのは、どんな人なんですか?」
もしかしたら、このマスターが探し人を知っている可能性も否定できないので、五十嵐が
正直に答えた。
「北川哲夫と言う人です」
「北川哲夫?知らないなあ。じゃあ、ともかくビルのオーナーの連絡先をお教えしますよ。ちょっとお待ちください」
マスターが席を離れると同時に、ウエイトレスがコーヒーを持ってきた。
ほどなく、マスターが再び現れ、
「これが、ビルのオーナーの連絡先です」と言って、オーナーの名前、白垣啓介の名前と電話番号が書いてある紙切れを渡してくれた。
「ありがとう」
情報を受け取ると、この喫茶店に長居をする理由はない。コーヒーを飲むと二人はすぐに席を立った。
 喫茶店を出たところで、五十嵐が早速、オーナーに電話した。
オーナーは不在のようで、何度かの呼び出し音の後、「今電話に出られません」と留守電が回った。
「白垣さんですか?私、弁護士の五十嵐という者です。お聞きしたいことがあるんですが、ご連絡いただけませんか。私の携帯の番号は、0992537241です」
「弁護士なんて言うと、ここのオーナー、ビビるんじゃないか」
「だったら、どういえばいいんだ。五十嵐だと名前だけを名乗っても、かえって真剣に受け取られないんじゃないか。まあ、ともかく連絡を待ってみよう」
「そうだな」
「今日は、これ以上何もできないな」
「それじゃあ、今日は終わりと言うことにしよう」
 正雄は五十嵐と別れて家に帰った時には、午後7時になっており、ちょうど夕食の時間になっていた。


著作権所有者:久保田満里子
 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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