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人探し(24)

「お母さん。キタガワテツオなんて珍しい名前じゃないから、同姓同名の人かもしれないよ」と峰子の期待感をそぐようなことを口では言いながら、正雄自身興奮を隠せなかった。
 その後、北川の家系図が映し出された。そこには父敏夫、母美智子と書かれていた。それを見て、正雄は思わず、「やったあ!北川哲夫が見つかった」と飛び上がって、喜んだ。峰子と言えば、信じられないと言うふうで、呆然としていた。五十嵐や藤沢がこの番組を見ているとは思えないので、正雄はまず五十嵐に電話した。
「おい、五十嵐か?正雄だ。北川哲夫が見つかったぞ」とどなり声をあげていた。
「見つかったって、どうやって見つけたんだ?」
「今テレビを見たら、有名人の先祖を探すと言う番組をやっていて、北川哲夫が出て来たんだ」
「北川哲夫?俺たちの探している北川哲夫か?有名人にそんな名前の人物がいたかなあ」と、五十嵐はまだ納得できない風だった。
「だからさ、北川哲夫って言うのが本名で、芸名がミッチーと言うお笑い芸人だったんだ」
「ミッチーなら、俺も知っているが、あいつの本名が北川哲夫なのか。しかし、同姓同名の別人かもしれないぜ」
「僕も最初はそう思ったんだが、父親の名前が敏夫で母親の名前が美智子なんだぜ。こんな偶然って、ありえないだろう」
「それは、本当か。うん、それなら間違いない」
「僕は、どうやって北川に連絡を取ればよいか分からないから、お前の方から連絡をとってくれないか?」
「北川の所属している芸能事務所を探して、北川に当たってみるよ。こうなれば、藤沢さんにも連絡した方がいいな」
「それは、俺の方からしておく」
五十嵐への連絡を終えると、峰子はまだぼんやりと座っている。
「母さん。やっと母さんも実の子に会えるね」と言うと、
「ミッチーの顔はテレビでよく見ていたけれど、まさか自分の子供だとは思わなかったわ。普通血がつながっていると、何か感じるものがあると思っていたけれど、何も感じないのよ」
「それは、実際に会ってみなければ分からないものだと思うよ。でも、お母さん、自分の子供が有名人なんて、すごいね」
「でも、有名人だと、騒ぎが大きくなるんじゃないかしら。私はその方が心配だわ。病院にはマスコミに情報を流さないと約束したんでしょ?」
「まあ、なるようにしかならないよ」
正雄は、すぐに藤沢の携帯に電話した。しばらく呼び鈴が鳴って、藤沢が出た。
「ぼく、坂口正雄です」
「何か、分かったんですか?」藤沢は意気込んで聞いた。何らかの進展があったと期待する様子がうかがえた。
「ええ、北川哲夫を見つけましたよ」
「こんなに早く、どうやって見つけたんですか」
「ミッチーって言うお笑い芸人知っていますか?」
「ええ、それが何か?」
「ミッチーの本名が北川哲夫なんですよ」
「ほんとですかあ」と藤沢の声が上ずった。
「本当です。父親の名前が敏夫で母親の名前が美智子。どうです?ドンピシャでしょ」
「そうですね。じゃあ、僕の実の両親も見つかったと言うことですね」
「そうです。五十嵐が北川に接触するはずですから、藤沢さんもご両親に会えるのは時間の問題ですよ」
「でも、」
藤沢の躊躇する声が聞こえた。
「でも、何ですか?」
「北川さんにもDNAテストをやってもらった方がいいんじゃないですか。間違いだったら大変なことになるし」
「そうですね。そこは慎重にした方がいいですね」
「でも、本当に実の両親に会えるのは時間の問題ですね。坂口さん、本当にありがとうございました」
「いえ、藤沢さんがあんなブログを書かなかったら、僕は何も知らずにいたことでしょう。実の親が見つかったのは、藤沢さんのおかげですよ。五十嵐から連絡が入り次第、また連絡します」
電話を切ると、ミッチーの出た番組は終わっていた。
「お母さん、北川家の先祖ってどこの出身なの?」と聞くと、
「そんなの見てなかったよ。それで、どうなったの?」と峰子は聞いた。
「五十嵐が、北川に接触して、事情を話すことになった」
正雄が答えると、峰子は「そう」と言った切り、黙り込んでしまった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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