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一(はじめ)と一子(いちこ)(2)

キクエは翌日一からも一子からも予想していた思いを聞いた。
「素直でええ人じゃ。是非嫁になってほしい。一目ぼれした」
「一さんは誠実そうなええ方じゃ。それにハンサムじゃし」恥ずかしそうに言う一子も一に一目ぼれをしたようだった。
キクエは早速一子の父親に会って、できるだけ早く結納を交わすように話をつけた。一子が婚期を逃していることを気にしていた一子の父親は一も二もなく同意した。
だから、次の一の休暇を待って、結納を済ませることにした。
次の休暇に高瀬町に戻って来た一は1940年11月1日付けで、つくば海軍航空隊付きの海軍一等水兵になっていた。
結納の儀に臨んだ一も一子も喜びを隠しきれなく、頬が緩みっぱなしであった。キクエは自分の目に狂いはなかったのが嬉しく、二人は似合いの夫婦になるじゃろうと、会う人ごとに言った。
 堂々と会うことができるように二人は、それから一の休暇の間毎日デートを楽しんだ。デートと言ってももっぱら川のほとりを散歩したり、一緒に食事をするくらいであったが、恋する二人は、一緒にいられるだけでも喜びを感じていた。
「一さんは、いつ一人前の飛行機乗りになれるんですか?」
「うまくいけば来年の7月に卒業できる予定なんだ」
「きっと一さんならうまくいくでしょう。でも、私、不安なんです。一さんが戦争に行かれて、なにかあったらと思うと、心配でたまらないんです」
「軍人の妻として、それは覚悟してもらわなければ仕方ないね。でも、死んだとしても、お国のために死んだと誇りに思ってもらう死に方をするよ。絶対捕虜になんかならん。捕虜になるくらいなら死んだほうがましじゃ」
そういう一の顔は真剣そのものだった。一子は、
「そうですね。私は何があっても一さんについて行きますから」と答えた。
「実(みのる)兄さんは、一昨年(おととし)小倉の陸軍病院で病気で亡くなったんだ。そのせいか知らないけれど母さんは軍人嫌いで死ぬまで『飛行機乗りなんて、なるな』と口酸っぱく言っていたよ。でも、お国のために死ぬのなら本望だと思っているんだ」
「一さん、そんなに死ぬなんてことを言わないでください」
一はすっかり自分の思いにかられて一子の気持ちを無視したことに気づき、
「ごめん。僕は死なないから」と、一子の手を強く握った。
 婚約しても、一と一子は離れ離れであった。一は大分海軍航空隊に所属していたため、
高瀬町に戻ってくることが、余り出来なかったからである。
 一は予定通り、1941年7月16日に第7期飛行練習生を卒業して、第一航空隊付きとなった。一子は一から送られてきた卒業式のピカピカのボタンをつけた軍服を着て、笑顔の一の写真を見て、「立派におなりになったこと」と、一に惚れ直した。
 一は飛行士になった後は、飛龍と言う軍艦の乗り込み員となった。
 その頃、日中戦争が拡大していて、すでに1940年9月27日には日本はドイツとイタリアと三国同盟を結んでおり、第二次世界大戦にまきこまれていっていた。だから一が前線に送られるのも遠からずと思われた。


著作権所有者:久保田満里子
 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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