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船旅(14)

ニールは、ビルを出たところで、携帯で話しながら歩いている男と衝突しそうになった。慌ててよけたので、正面衝突は避けられたが、若いサラリーマン風の中国人の男は、一瞬ニールの顔を見て、「ソーリー」と言ったが、そのままニールの傍らを過ぎて行ってしまった。その男の携帯を見て、ニールはハッとした。リーに携帯の電源を切って家を出るように言うのを忘れてしまった。もし彼が携帯をつけたままで家を出ると、GPSで簡単にリーの行先が分かってします。そうすれば、尾行をする手間も省ける。国家組織が背後にあると思うと、それくらいのことはやってのけると言うのは、ニールにも分かった。しかし、今更リーの家に戻って、そんなことを伝えるのも危険だ。どうすれば、メッセージを送れるか、ニールは迷った。きょろきょろ辺りを見回すと、公衆電話が目に留まった。電話をするにしても、メッセージはできるだけ簡潔にしなければいけない。公衆電話の受話器を取り、電話番号を押した後、リーが出るのを待った。リーはなかなか出てこない。もう外出してしまったのかと思ったら、電話にリーが出て来た。
ニールは一言だけ「外出する時は、携帯の電源を切れ」と言うと、リーが応える前に電話を切った。
 ニールはその後、自分の携帯を使って、光江に電話した。光江と昼ご飯を一緒にしようと思ったからだ。光江は携帯に出たが、電波の弱いところにいるらしく、聞き取りにくかった。
「今、どこにいるんだ?」
「ダーイーユーサーン」
「何?ダーイーユーサーン?それはどこにあるんだ?」
「あなたこそ、どこにいるの?」
「西九龍(カオルーン)だ」
「それはじゃあ、ここに来るのは時間がかかるわ」
「そうか、昼ご飯を一緒にしようと思ったけれど、無理そうだな」
「そうね。仕事はうまくいったの?」
「うん。思ったより早く終わったよ。でも、また夕方から忙しくなる」
「じゃあ、仕方ないわね。別々に昼ご飯を食べて、一旦船に戻ることにするわ。何しろ、香港に何度も来たことがあるとはいっても、行き方なんてわかりにくいもの」
「そうか。それじゃあ、僕も今から昼ご飯はどこかで食べて、船に帰ることにしよう」
「そう。じゃあ、またね」と言って、光江は携帯を切った。
 光江が船に戻ると、午後3時になっていた。ニールはすでに部屋で、光江を待っていた。
「もう、仕事は終わったの?」
「いや、またこれから船長に会う必要があるんだ」と、答えると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ?」とニールが聞くと、
「アマンダさんの殺害事件を捜査している刑事です」
思わず光江とニールは、顔を見合わせた。香港の警察がどうして二人に用事があるのだろう。まさか、ニールとアマンダの関係がばれてしまったのではないかと思うと、背中がぞくっとして、すぐにドアを開ける気にはなれなかった。

ちょさ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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