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ある写真家の物語(1)

 今から思えば、私は10代のころから写真を撮ることが好きでした。でも、別に写真家になりたいとか、そんな思いはなく、ただ旅行に行った時や、何か記念になる日があった時に、記録を取るために撮っていました。旅行の写真など、同居していた祖母に見せると、「あんたの写真を見ていると、自分も旅行に行ったようで、楽しいよ」と言って喜んでくれたので、写真を撮る励みにもなりました。その頃はスマホなんてなかったので、今ほど誰でも写真を撮ると言う時代ではありませんでした。写真家の伯父がいて、私は写真を撮っては、その伯父に添削してもらい、構図やフォーカスの仕方を教えてもらいました。その時いつも、「一体何が撮りたいの?」と、聞かれたものです。何を撮りたいか対象を決め、その対象が一番きれいに見える構図を選び、焦点に当てる。そんなことを伯父に添削してもらうことによって学びました。
 20歳を過ぎた頃は、弟に現像の仕方を教えてもらい、白黒写真は自分で現像できるようになりました。
 24歳の時ワーキングホリデーで、オーストラリアに来た時も随分写真を撮りました。その時は馬鹿チョンカメラでしたが、広角レンズのついている物を持って来ました。私が見て興奮を覚えたものを写真に撮り、日本にいた祖母に送ってあげました。カンガルーやコアラは勿論のこと、内陸部のどこまでも続く赤い大地に青い空。大きな波に乗ってサーフィングをする人達。太陽が真っ赤な光を放ちながら地平線から消えていく姿など、祖母の楽しそうに写真を見ている姿を思い浮かべて、ドンドン写真を撮って日本に送ったものです。
 ワーキングホリデーから帰って10年後に、憧れのオーロラを見にアラスカに行きました。オーロラって肉眼では緑しか見えないんです。カメラを通して初めて、赤色などの多彩な色に見えるんですよ。その頃まだデジタルカメラはなかったので、現像するまで、写真がちゃんと撮れているかどうか分からなかったので、ドキドキしながら、写真を撮りました。シャッター速度が短すぎると暗くて撮れないし、長すぎるとカーティンの感じが出ないんです。一眼レフを持って行ったけれど、調節が難しかったです。そこはマイナス30度の世界で、濡れたタオルを10回振り回すと、カチカチに凍っちゃうくらい寒いんですよ。ガタガタ震えながら、シャッターチャンスを待ったものです。私が行った所は温泉もある所だったので、オーロラが見れなかったら温泉旅行に来たと思えばいいかなと思っていましたが、ありがたいことに、ばっちり見ることができました。空に繰り広げられる美しい光のカーテンを見ていると、自分の抱えていた悩み事がとてもちっぽけなように思えたものです。
ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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