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ある写真家の物語(最終回)

フォークランドのペンギンの写真を撮りに行くツアーにも参加しました。フォークランドと言うのは、あの1982年にアルゼンチンがイギリスから領地を獲得しようとして戦ったアルゼンチン沿岸にある南大西洋の群島のことです。結局イギリスの勝利に終わり、今でもイギリス領の島です。私達の行った離島は人口5人くらいで、ペンギンしかいないような島でした。キングペンギン、マゼランペンギン、ゼンツ―ペンギン、イワトヒペンギン、マカロニペンギンと5種類のペンギンがいました。ペンギンの写真もたくさん撮りましたが、アホウドリの写真も撮りました。アホウドリのヒナが好奇心を持ってカメラを覗き込む姿は愛らしく、愛でて撮ると言う言葉にぴったりの経験でした。
 3年前にはトンガにクジラの写真を撮りに行きました。イルカと泳いだ経験があるので、かなり速く泳げないとダメだと思い、行く前は、毎日プールに通って、トレーニングしていきました。でも、クジラって実際にはゆっくりピースフルな泳ぎをするんですよね。数頭の雄が雌を追いかける時はものすごいスピードで泳ぐので怖いけれど、それ以外の時はとてもおとなしい生き物なのです。大人のクジラは余り海面上に出て息継ぎをしなくてもいいのですが、赤ちゃんクジラは頻繁に息継ぎをする必要があります。だからお母さんクジラが海底でじっとしていると、赤ちゃんクジラは息つぎのため、時々水面に上がって、またお母さんのおなかの下に戻っていくのですが、その姿は、ほほえましかったです。そんな時はクジラもじっとしているので、私もじっとして見ていました。一番感動的なのは、クジラの歌です。ボートに乗っていてもクジラの出す高周波は聞こえるのですが、海の中にいると低周波も水の振動として体全体に響いてくるのです。下に潜ると、もっともっと低音が響いてくるんです。全身を音でマッサージしてもらっている感じです。
 去年、ある航空会社がカレンダー用の写真を募集したので、応募しました。その航空会社の直行便のある国際都市の写真を募集していて、私が住んでいるシドニーもその中に含まれていたのです。VIVIDシドニーの音楽と光の祭典の時、オペラハウスが色んな光で照りだされ、シドニーハーバーを航行するフェリーの航路が青く映りだされたのを撮影した写真を応募写真に選びました。この写真はハーバーブリッジからオペラハウスを俯瞰するような位置で、シャッターチャンスを狙い、4分間の長いシャッター速度を使って撮ったものです。フェリーの航路を撮るためです。もっといい物が撮れないかと2時間かかって何枚も何枚も撮った中で一番良く撮れたものを選びました。この写真が採用された時は、手が震えるほど、嬉しかったです。やっと写真家として認められたのですから。フェリーの航路が水色から青に変化するのも有利に働いたのかなと思います。だって昔のその航空会社のマークは水色で、今のマークの色は水色と青色のコンビネーションですから。そのことを指摘した解説をつけて、応募写真を送りました。審査員だった方に後でお礼のメールをしたら、「力を感じました。あなたのオペラハウスに対する気持ちがひしひしと伝わって来ました」と、お褒めの言葉をもらいました。写真には心が宿るのだと、再確認しました。
 これからも、いろんなところに出かけ、見る人に自分の感動を与えられる写真を撮っていきたいと思っています。

注:実話に基づくフィクションです。


 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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