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テス・マッケンジーさんの物語(2)

私が仕事を探している時、進駐軍のホレス・ロバートソン司令長官のお宅で二人ハウスメイドを探していると知人から聞いて応募し、幸いにも採用されました。色んな仕事の選択があれば、ハウスメイドに応募しなかったかもしれませんが、失業者があふれる中、仕事が見つかっただけで、ラッキーだと思いました。英語は少し話せたのが、良かったようです。私は9人兄弟でしたが、3番目の兄、竹藤実が、中学で英語を習っていて、私にも教えてくれたおかげです。
 1948年4月に、レイ・マレイ・マッケンジーと出会いました。彼は長官の世話をしていたので、長官邸に住んでいました。初めて会った時は、ハンサムな人だなと言う印象を持ちましたが、それ以上の感情は持ちませんでした。ところがレイの方は、私に一目ぼれしたようです。物資の少なかった頃ですが、レイは会う度に、色んなプレゼントをくれるようになりました。ケーキやレモネード、化粧品などをプレゼントしてくれたのですが、その頃町ではなかなか手に入らないものばかりなので、嬉しかったです。レイは自分が好きなんだろうなと漠然とは思いましたが、私の方から積極的にアプローチはしませんでした。会って2か月後のことです。いつもとは違って緊張した面持ちのレイに、交際してほしいと申し込まれました。私もレイに好意を持っていたので、すぐに「イエス」と返事をしました。レイは私の返事を聞くと、私を抱きしめてキスをしたので、びっくりしました。今のように日本ではキスやハグを大っぴらにする習慣がありませんでしたから。ただ、自分の家族がどう反応するだろうかと、それが気がかりでした。まず、実兄さんに話しました。自分に英語を教えてくれた兄なら自分の味方になってくれるだろうと思ったからです。その頃広島で警官になっていた実兄は思った通り賛成してくれました。4番目の兄金次郎は、進駐軍のバンドでトロンボーンを吹いており、進駐軍の兵士に対して、偏見をもたない人でした。金次郎兄さんはまず「お前の気持ちはどうなんだ?」と聞きました。「私もレイが好きなの」と、顔を赤らめて答えると、兄は「よし、それじゃあ、俺がおやじを説得してあげる。まかせておけ」と言ってくれました。兄からレイの話を切り出された父、竹藤岩三郎は、思った通り、しかめっ面をしました。「父さん。まず相手に会って見てやってくれよ」と言う兄の説得に、父はしぶしぶレイと会ってくれることを承知してくれました。
 後でレイに聞くと、私から父に会ってくれと言われ、随分ビビったそうです。父と対面して挨拶をする時は緊張のあまり、出されたコーヒーをこぼし、うろたえたようです。その彼の緊張ぶりを見て金次郎兄さんが助け舟を出してくれ、それをきっかけに緊張した空気がほぐれ、その後は、いつもの陽気なレイに返りました。最後には父とも打ち解け、父から無理やりお酒を勧められ、父から結婚の許可をもらったのです。レイが帰った後、父は「誠実そうな人だな」と一言私に言いました。レイは父に気に入られたのです。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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