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木曜島の潜水夫(6)

 潜水夫にとっての一番の脅威は潜水病である。潜水病にかかると、まず手足がしびれ、筋肉痛を起こす。そして手足の力が抜け、ふらついて、めまいをおこし、物が2重に見える。そのうち呼吸困難に陥り、胸の痛みを訴え、最悪の場合は死に至る。そのため、潜水のための準備は周到に行われた。潜水夫が潜る前に、貝のある所を探る必要がある。まず、ビンのように中が開いている重りに石鹸を入れ、紐で結んで、1ファゾム(1.8288メートル)ごとに印をつけて綱にそって、そのおもりを海底に投げ込み、持ち上げて貝の砂が石鹸についていないか調べ、貝のある海底を探る。
 貝の在りかが分かれば、その場所に潜水夫をおろし、船を40分一定方向に漂わせ、20分で追い風に乗って元の位置に戻って来る。2回ほどそのように漂い、潜水夫を引き上げる。毎日それを8-10回行い、日暮れまで作業を続ける。
 トミーの潜水の準備は日の出前から始まる。深海は夏でも冷たいので、ソックスを3足履き、3枚下着を着、ファネルのシャツ3枚を着た。その上に雑用係りの乗組員に抑え込まれて50キロもある潜水服を着た。それが済むと、胸板を付けたまま、座って日の出を待つ。水平線上に日の光が出て明るくなり始めると、トミーは穀物類をミルクと一緒に煮たお粥のようなポーリッジと呼ばれるものと紅茶で朝食をすませる。そして太陽が水平線に頭を見せ始めると、梯子に立って、重い真鍮でできたヘルメットをかぶった。見張り人はヘルメットのガラス盤のねじをしめると、準備ができたとトミーの頭を叩いて知らせた。すると、トミーは海に飛び込み下降し始める。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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