Logo for novels

木曜島の潜水夫(7)

海に潜ったトミーの命綱は2本ある。1本は空気を送るホースで、もう一本は見張り人とのコミュニケーションをとるための紐である。トミーがヘルメットの横側にある空気バルブで、空気の調節をしている間、見張りは綱を緩めて行く。トミーは海底に着いたら、紐を引っ張って、海底にたどり着いたことを知らせる。すると、見張りは紐を少し緩めて、船がトミーを引っ張って行く。一旦トミーが潜水を始めると見張りとトミーとは紐の引っ張り具合だけでコミュニケーションすることになるわけである。そのため、見張りは紐の引っ張り具合に絶えず注意を払う必要があった。一回引くと「上昇したい」と言う意味で、2回引くと、「空気をもっと送れ」と言う意味で、そのほかには次のような決まりごとがあった。
3回引く:ホースがゆるんでいる
4回引く:ブイを浮かせ
5回引く:帆を下げろ
6回引く:スクリューを回せ
7回引く:船を右に回せ
8回引く:船が速すぎる
9回引く:貝多し
10回引く:潮の流れが変わった
揺らしながら1回引く:獲物袋をあげろ
揺らしながら2回引く:危険
揺らしながら3回引く:ホースをあげろ
揺らしながら4回引く:砂山がある
揺らしながら5回引く:帆を半分あげろ
揺らしながら6回引く:スクリューを停止させろ
揺らしながら7回引く:船を左に向けろ
揺らしながら8回引く:船が遅すぎる
揺らしながら9回引く:旋回しろ
2引き、揺らし、2引き:船の右側に行く
3引き、揺らし、3引き:船の左側に行く
 実に19種類の意味が紐の引き方で伝えられ、それを間違うと潜水夫は命を落としかねない。見張りは、紐の引っ張り具合を観察すると同時に手動ポンプで潜水夫に空気を送らなければならず、潜水夫の命を預かっているので、神経を使う仕事だった。

ちょさく

 

コメント

関連記事

最新記事

カレンダー

<  2024-05  >
      01 02 03 04
05 06 07 08 09 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

記事一覧

マイカテゴリー