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木曜島の潜水夫(8)

海に潜ると最初は闇に閉ざされ、真っ暗闇を手探りで沈んでいく。海の水は、三枚重ねの下着と3枚重ねの上着を着ていても冷たく感じる。ゴボゴボと海水の音だけが耳に伝わって来る。45メートルを過ぎる頃から、月明かりに照らされたようなほのかな明かりで周りが見え始める。90メートルまで潜ると、長くても20分しかいられない。そこで貝を探すのだが、これがなかなか難しい。水の中とは言え潜水服の重さで、動くのも一苦労である。好奇心の強い熱帯魚が集まって来て視界を妨げるので、熱帯魚を追っ払わなくてはいけない。海藻で貝が見えないことも多い。貝を見つけるのには、ある程度の勘がいるが、幸いにもトミーには、その勘があった。獲物袋が採った貝でいっぱいになれば、紐を揺らしながら1回引いて、獲物袋を上げるように合図をする。獲物袋が引き上げられ、また空の獲物袋が下りて来る。また、袋がいっぱいになると引き揚げられ、空の袋が降ろされる。それを繰り返し、もう獲れなくなったら、ひもを手繰りで寄せて、引き揚げられ、貝を回収した場所には印をつける。
 引き上げられる時が最も危険だ。急に引き上げられると、潜水病にかかる。潜水病で死ぬ者が多いので、1912年オーストラリア海軍は、次のようなポスターを作って警告を出している。
「潜水夫達へ
急に上昇しないこと。
できるだけゆっくり浮上すること
ゆっくり引き上げないと、潜水病にかかることもある」
 このため、潜水夫たちは2時間かけて、ゆっくりと浮上をする必要があった。
しかし、潜水に慣れてくると気が緩み、こんな警告も無視されることが多かった。1878-1941年の間に700人以上の日本人の潜水夫がオーストラリアで命を落としている。そのうち21歳以下の潜水夫が半数を占めた。潜水病の症状が出るまでには1時間以上かかるので、無事に浮上したように見えてもしばらくは油断ができない。

ちょさ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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