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木曜島の潜水夫(11)

 1938年はトミーにとって、最高に幸せな年であると共に、最高に悲しい年でもあった。
1938年1月15日、トミーは、ついにジョセフィーンと結婚した。トミーは31歳で、ジョセフィーンは11歳年下の、20歳だった。真珠貝採取は1月14日から2か月間休みに入る。休みに入った翌日に結婚したことになる。結婚式の会場は島にある3つの教会のうちの一つで、二人が出会ったところでもあった。それまで日本人で教会で結婚式をする許可をもらった者はいなかった。トミーが洗礼を受けていたことや、ジョセフィーンの実家が富豪で島の名士であったことや、ジョセフィーンの母方の祖父がこの教会の牧師だったことも、許可がとれた要因として考えられる。
白いウエディングドレスに身を包み、花飾りを髪につけ花束を持って、父親に伴われて会場に現れたジョセフィーンはひときわ美しく、トミーは、愛する女性と結婚できた幸せを改めてかみしめ、胸がときめき、緊張した。トミーは普段は身なりを構わないのだが、この日ばかりは、三つぞろいの背広に白いワイシャツ、そして赤い蝶ネクタイをしめて、ジョセフィーンを迎えた。新郎の付き添いにはトミーの潜水夫仲間の川端富士太郎が、新婦の付き添いはジョセフィーンの妹のロジナが務めた。教会には、ジョセフィーンの父親が島でも名士だったこともあって、島中の名士が集まり、人気者のトミーにも、トミーの弟の寿一は言うまでもなく、串本ハウスの会長、中井甚平をはじめとした仕事仲間が多く集まり、盛大に行われ、皆に祝福された。
 結婚後は、串本ハウスの隣にあった、山本英次郎の居住地にある家を借りて、新婚生活を始めた。串本ハウスが隣だったので、トミーの仕事仲間はしょちゅうトミーの家に遊びに来て、トミーの家はいつもにぎやかだった。ジョセフィーンも社交的な性格なので、トミーの友達を快く歓待した。結婚するまでは、稼いだお金はすぐに使ってしまったトミーだったが、結婚後はギャンブルもしなくなり、自分たちの家を建てるためにせっせと貯金をし始めた。トミーはジョセフィーンを大切にし、ジョセフィーンにとっても、トミーは理想の夫であった。二人は幸せだった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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