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木曜島の潜水夫(18)

トミーたちはシドニーで下船した後は輸送列車に乗せられて、11時間かかってヘイに着いた。ヘイはシドニーから西650キロある牧草地帯である。トミーたちは駅からは舗装されていない凸凹道を1キロ歩かされた。どこまでも水平線が続き、道の両側には牧草地が広がり、牛や羊が放し飼いにされていた。一見のどかに思える風景だった。しばらく歩くと、遠くに平屋木造建てのトタン屋根の長方形の小屋が立ち並んでいるのが見えた。そこが、ヘイ収容所だった。周りは3重の有刺鉄線の柵に取り囲まれていて、監視塔から機関銃を持った兵士に監視されている物々しいところは、木曜島の寄宿舎にいる時と変わらなかった。
 トミーたちが収容所に到着すると、すぐに列を作らされた。順番に写真を撮られて、身分証明書が作成された。トミーの証明書の個人的描写の項目には、次のようなことが書かれていた。
身長:5フィート7インチ、
目の色:茶色
髪の色:黒、  
体型:普通
目立つ身体的特徴:あごの右側の傷
注:身分証明書、5166番 提出
そして、身分証明書には指紋をつけられた。次に健康診断がされ、小豆色の囚人服を渡された。作業などで、塀の外に出る時は、この制服を着なければいけなかったが、収容所内では私服で構わないと言われた。
 その後、毛布一枚が手渡され、自分のねぐらに案内された。トミーが連れて行かれたのは、第六収容所と呼ばれるところだった。第六収容所は日本人専用で、第七と第八収容所は英国から輸送されて来たドイツ人とイタリア人の戦争捕虜専用の収容所だった。それぞれの収容所には、36棟の宿舎があり、2棟の食堂、2棟の炊事場、事務所、簡易病院施設、売店があり、1000名が収容されていた。宿舎は1棟28名が収容され、トミーと城谷は、中村康夫、村松喜美男、瀧本清之介たちと一緒に第25宿舎に入れられた。小屋に入ると土の通路があり、通路を挟んで両側に部屋があった。部屋は通路より10センチほど高い床があり、そこに上下2段の金属製のベット7つが、置かれている。ベッドには厚さ10センチほどの藁布団が敷かれていた。そこがトミーたちの新しいねぐらだった。
 トミーは自分と同じ小屋に、城谷勇がいることが分かった時、安堵のため息をついた。心置きなく話せる友がいることは、心強かった。城谷もトミーと一緒なので安心したようで、木曜島を離れてから初めて、トミーを見て、ニヤッとした。二人とも、過酷な旅の疲れがでで、部屋に入ると物も言わずにベッドに倒れ込むように横になり、毛布にくるまって、すぐに泥のように眠った。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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