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木曜島の潜水夫(35)

その頃トミーの家では祝い事が続いた。1962年、長女の珠代がローリー・カークと言う男性と結婚し、翌年には孫もできた。初孫が生まれた年に、トミーとジョセフィーンの間にも息子が生まれた。息子はトーマスと名付けられた。母娘が同じ時期に大きなおなかを抱えていたのは、トミーは少しきまり悪かったが、年を取って生まれた子供には、また格別の思いがあった。
 その年、ジョセフィーンが、モーテルを作りたいと言い出した。トミーもいつまでの他人に雇われて働くよりは、ジョセフィーンと二人でモーテルを経営するのも悪くないと思い始めた。
 二人とも社交的で、人付き合いが良い。客商売は、性に合っていた。それに、島の中心街に土地は買っていた。1963年に、トミーは、大工の資格のある息子のラッセル、そしてジョン・スマイスと言う建築業者と三人で、モーテルの建設を始めた。トミーもラッセルも働きながら、週末や仕事の終わった後に集まって、4万個のレンガを積み上げる大仕事だった。
 そのモーテル建設中の1964年に、木曜島病院の管理部に勤めていたラッセルは、病院の歯科医の助手をしていたロミナと言う女性と出合い、教会で結婚式をあげた。1962年から1964年の2年の間に、トミーの家族は5人から9人に増えたことになる。もっとも同居人は4人に減ってしまっていたが、子供たちの家は皆近所にあったので、よく全員顔を合わせて、ジョセフィーンの腕によりをかけた食事を楽しんだ。
レインボー・モーテルと呼ぶ近代的なレンガつくりの建物が木曜島の中心街にできたのは、建築に着手して2年後の、1965年のことだった。木曜島にできた初めてのモーテルだった。モーテル開業の日、朝早く起きたトミーは、モーテルの前に、日本の旗を揚げた。ところがそれが日本の軍隊が掲げていた朝日をかたどった旗なのに娘の珠代が気づいて、「パパ、間違った旗をあげているよ。早く降ろさないと大変な騒ぎになるよ」と言ったため、トミーは間違った旗をあげたことに初めて気づいて、慌てて日章旗にやり替えたというハプニングもあった。


ちょさ
 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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